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【ABAP完全ガイド】SAPエンジニア必須の言語とは?年収・将来性・キャリアパスを徹底解説

スキル

最終更新日:2025/12/05

【ABAP完全ガイド】SAPエンジニア必須の言語とは?年収・将来性・キャリアパスを徹底解説

IT業界には、Web系言語とは異なり、企業の基幹システムを裏側で支え続ける「巨大な言語」が存在します。 それが、ERPパッケージ「SAP」を動かす専用言語、「ABAP(アバップ)」です。 「古い」「特殊」といったイメージを持たれがちですが、世界の大企業の心臓部である会計、物流、販売の多くは、今もなおABAPによって制御されています。 なぜABAPは使われ続けるのか? そして、なぜABAPエンジニアは業界トップクラスの年収水準を維持しているのか? 本記事では技術解説ではなく、エンジニアの「キャリア戦略」という視点からABAPの全貌を解き明かします。 初心者には「基礎知識」を、経験者には「S/4HANA時代の将来性」をお届けします。

目次

  • ABAPとは何か【初心者向けに簡単に解説】

  • ABAPエンジニアの仕事内容 〜何を作るのか〜

  • ABAPエンジニアの年収事情

  • ABAPの将来性 〜S/4HANAとクラウド化の影響〜

  • ABAPerからのキャリアパス

  • まとめ

  • よくある質問

ABAPとは何か【初心者向けに簡単に解説】

ABAPの定義と歴史

ABAPは正式名称を「Advanced Business Application Programming」と言います。

直訳すれば「高度なビジネスアプリケーションのためのプログラミング」となり、その名の通り、ビジネスロジックを記述することに特化して誕生しました。

この言語の歴史は古く、1980年代まで遡ります。

SAP社が開発したERPシステム(統合基幹業務システム)であるR/2、R/3、そして現在のS/4HANAに至るまで、SAPのアプリケーション層は一貫してABAPによって記述されています。
なぜ、JavaやC#のような汎用的な言語を使わず、独自の言語を作り、それを使い続けているのでしょうか?

その答えは「互換性」と「ビジネスへの最適化」にあります。

SAPは一度導入すれば10年、20年と使い続けられるシステムです。

30年前に書かれたプログラムが、最新のシステム上でも(多少の手直しで)動くという驚異的な後方互換性こそが、企業の資産を守り、SAPが世界シェアNo.1であり続ける理由の一つです。

ABAPは、過去の資産を切り捨てずに進化を続けてきた、非常に懐の深い言語なのです。

ABAPの特徴的な性質

ABAPを理解するためには、一般的なWeb開発言語との「思想の違い」を知る必要があります。

ここではコードを使わずに、その特徴を概念として説明します。

「ビジネスのための言語」である理由

一般的なプログラミング言語は、ゲームを作ったり、科学技術計算をしたりと、あらゆる用途に使えます。

しかしABAPは「企業の業務」以外には使えません。

その代わり、業務に必要な機能が標準装備されています。
例えば、世界各国の「通貨」の計算です。

日本円は整数ですが、ドルやユーロは小数点以下があります。

あるいは、複雑な「日付」の処理は、プログラマーがいちいち定義しなくても、ABAPは最初から「金額データ」「日付データ」として厳密に扱う仕組みを持っています。

金融機関や商社が求める「1円のズレも許されない処理」を、ABAPは堅牢に実現します。

イベント駆動型言語

ABAPのプログラムは、ユーザーの操作(イベント)を待ち構えるスタイルが基本です。

「画面が開かれた時」「ボタンが押された時」「データが保存される直前」といった特定のタイミング(イベントブロック)があらかじめ用意されています。
開発者は、「保存ボタンが押された時」というブロックの中に処理を書くだけで済みます。

画面の描画やOSとのやり取りといった面倒な裏方作業は、SAPの土台(ベーシス)がすべて引き受けてくれるため、開発者は「業務ロジック」だけに集中できるのです。

SQLとの密接な関係

最大の特徴といえるのが、データベースを操作する言語である「SQL」が、ABAPの一部として完全に統合されている点です(Open SQL)。
Javaなどでは、データベースに接続するために特別な設定やライブラリが必要ですが、ABAPではプログラムの中にいきなり「SELECT(データを持ってこい)」と書くことができます。

データベースとプログラムが「直結」している感覚。これが、大量の業務データを高速に処理するアドバンテージとなっています。

開発環境について

ABAPの開発は、一般的なテキストエディタ(VS Codeなど)では行いません。

SAPシステムの中にログインし、その中にある専用の開発ツールを使います。

ABAPワークベンチ(SE80)

長年使われてきた伝統的な開発環境です。

SAPの画面(SAP GUI)上で動作し、プログラムの作成、テーブルの定義、画面のデザインまで全てここで行います。

ベテランの職人たちは、ショートカットキーを駆使し、この画面で魔法のように機能を組み上げていきます。

ABAP Development Tools (ADT)

近年主流になりつつあるのが、Eclipseという汎用IDEをベースにした開発環境です。

「モダンな開発」を実現するために導入されました。

コード補完機能やリファクタリング機能が充実しており、Javaなどの他言語経験者にも馴染みやすい画面構成になっています。

SAPの開発現場も、徐々にこの新しい環境へとシフトしています。

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ABAPエンジニアの仕事内容 〜何を作るのか〜

「アドオン開発」という概念

ABAPエンジニアの仕事を一言で表すと、「アドオン(Add-on)開発」となります。
SAPは「ERPパッケージ」ですので、会計や販売管理といった標準的な機能は最初から完成された状態で提供されます。

理論上は、導入するだけで業務ができるはずです。

しかし、現実のビジネスはそう単純ではありません。

「ウチの会社独自の請求書のフォーマットがある」「業界特有の計算ルールがある」「取引先との特殊なデータ連携が必要だ」といった、標準機能だけではカバーできない隙間(Gap)が必ず発生します。
この隙間を埋めるために、標準機能に追加(Add-on)する形でプログラムを開発するのがABAPエンジニアの使命です。

いわば、既製品の高級スーツを、顧客の体型に合わせて微調整する「仕立て屋(テーラー)」のような役割と言えるでしょう。

具体的な開発オブジェクト(4大要素)

では、具体的にどのようなプログラムを作るのでしょうか。

大きく分けて4つのカテゴリがあります。

レポート機能(Reports)

これは、最も基本的な開発です。

データベースに蓄積された何百万件ものデータから、ユーザーが指定した条件(期間、部署、品目など)でデータを抽出し、一覧表として画面に表示します。
単に表示するだけでなく、赤字の項目を赤くしたり、合計値を計算したり、その画面からさらに詳細画面へジャンプしたりと、経営層や現場担当者が「今の状況」を判断するための羅針盤を作ります。

帳票機能(Forms)

ビジネスにおいて「紙(またはPDF)」は依然として重要です。

請求書、納品書、注文書、梱包ラベルなど。

これらを、1ミリ単位のズレもなく、指定されたロゴや罫線と共にレイアウトし、そこにSAP上のデータを埋め込んで出力するプログラムです。
「金額の桁数によってフォントサイズを変える」「海外向けのインボイスを作る」といった、細やかで厳密な制御が求められます。

インターフェース(Interfaces)

SAPシステムは孤島ではありません。銀行システムへの振込データ送信、物流倉庫システムへの出荷指示、ECサイトからの受注データ取り込みなど、外部システムとの連携が必要です。
ファイル連携やWeb APIなどを駆使し、異なるシステム間でデータを翻訳・橋渡しするパイプラインを構築します。

システム全体の血流を担う重要な開発です。

バッチインプット・変換プログラム

業務時間外の夜間に、大量のデータを一括処理するプログラムです。

例えば、全社員の給与計算処理や、月末の在庫評価、あるいは古いシステムからSAPへのデータ移行プログラムなどがこれに当たります。
ユーザーの目には触れませんが、何時間もかかる処理をいかに短時間で終わらせるかという「パフォーマンスチューニング」の腕が試される領域です。

開発プロセス(上流から下流まで)

ABAPエンジニアの仕事は、キーボードを叩くだけではありません。
まずは、機能コンサルタントやSEが作成した「基本設計書(Functional Specification)」を読み解くことから始まります。

「ユーザーは何を求めているのか」「どのようなデータが必要か」を理解し、それをプログラムのロジックに落とし込むための「詳細設計書(Technical Specification)」を作成します。

その後、コーディングを行い、単体テストを実施します。SAPシステムは企業の基幹業務を担うため、バグは許されません。

「データが1件もない場合」「データが100万件ある場合」「予期せぬエラーが起きた場合」など、あらゆるケースを想定したテストを行う忍耐強さが求められます。

ABAPエンジニアの年収事情

なぜABAPエンジニアの単価は高いのか

IT業界の中でも、SAPおよびABAPエンジニアの年収・単価は「高止まり」していると言われます。

一般的なWebエンジニアと比較しても、明らかに高い水準にあります。

その理由はシンプルです。

圧倒的な需要と供給のバランス

SAPは世界中の大企業が導入していますが、それを扱える技術者の数は限られています。

JavaやPHPのように独学で習得して参入する若手が少ないため、常に「慢性的な人材不足」の状態です。

需要(案件)は山のようにあるのに、供給(エンジニア)が足りない。

この市場原理が、報酬を押し上げています。

「ITスキル × 業務知識」の希少価値

ABAPエンジニアは、単にコードが書けるだけでは務まりません。

「売掛金とは何か」「在庫評価とは何か」といった業務知識(ドメイン知識)が不可欠です。

ITの技術力と、簿記や商習慣などのビジネス知識、この2つを兼ね備えた人材は非常に希少であり、企業は高い報酬を払ってでも確保しようとします。

年収・単価の相場(レベル別)

あくまで目安ですが、現在の市場感をお伝えします。

初級者(経験1〜2年)

まだ指示を受けながら開発する段階でも、年収400万〜500万円程度が相場です。

この段階では、まずはABAPの文法とSAPの基本操作を覚えることが最優先です。

中級者(経験3〜5年・一人称で開発可能)

設計書を渡されれば一人でプログラムを完成させられるレベルになると、市場価値は一気に跳ね上がります。
会社員であれば年収600万〜800万円クラス。

フリーランスとして独立すれば、月額単価80万円〜100万円(年商1000万円前後)の案件が豊富に選べるようになります。

この層が最も需要が高く、現場の主力として活躍します。

上級者(リーダー・設計クラス・コンサル寄り)

難易度の高いインターフェース設計や、パフォーマンス改善、若手の指導ができるレベルです。
フリーランス単価では月額120万円〜150万円以上、年商にして1500万円〜2000万円に到達することも決して珍しくありません。

ここまで来ると、単なるプログラマーではなく「テクニカルコンサルタント」として扱われます。

雇用形態による違い

SAP業界は、他のIT分野に比べて「フリーランス市場が極めて活発」であるという特徴があります。

プロジェクト単位で予算が組まれるため、企業側も「高い技術力を持つ外部のプロフェッショナル」を歓迎する土壌があります。
大手SIerの正社員として安定したキャリアを築きつつ大規模プロジェクトを指揮する道もあれば、フリーランスとして技術力を武器に高収入を得る道もあり、ライフステージに合わせた選択肢の広さも魅力の一つです。

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ABAPの将来性 〜S/4HANAとクラウド化の影響〜

「ABAPは古い言語だ」「将来性がないのでは?」という噂を耳にすることがあるかもしれません。

しかし、実態はその逆です。

現在は、「過去最大級のABAP特需」の入り口に立っています。

「2025年・2027年の崖」問題とは

現在、世界中のSAPユーザー企業を揺るがしているのが、「SAP ERP(ECC 6.0)」の保守期限終了問題です。

これにより、既存のSAPユーザーは、最新の製品である「SAP S/4HANA」へシステムを移行しなければなりません。
この移行プロジェクトが世界規模で同時多発的に進行しており、日本国内だけでも数千社が対象と言われています。

既存のABAPプログラムをS/4HANA用に修正したり、作り直したりする作業が膨大に発生しており、向こう10年近くはABAPエンジニアが全く足りない状況が続くと予測されています。

クラウド時代の新しいABAP

ABAP自体も進化しています。かつての「オンプレミス(自社サーバー)」中心の世界から、「クラウド」中心の世界へ。
SAP BTP (Business Technology Platform) と呼ばれるクラウド上のプラットフォームが登場し、ABAPもクラウド環境で開発・動作するようになりました(通称:Steampunk)。
ここでは、Gitを使ったバージョン管理や、最新のWeb技術との連携が可能になっています。

「古いABAP」しか知らないエンジニアは淘汰されるかもしれませんが、新しい技術をキャッチアップできるABAPエンジニアにとっては、活躍の場はクラウドへと無限に広がっています。

「Clean Core」戦略による変化

これまでのSAP開発は、標準機能を直接改造するような手法も多く取られていました。

しかし、クラウド時代では、システムの中心(Core)を綺麗に保ち、バージョンアップを容易にする「Clean Core」という戦略が推奨されています。
これにより、ABAP開発も「なんでもありの改造」から、「公開されたAPIを使ったスマートな拡張」へとスタイルが変化しています。

この新しい開発作法を身につけたエンジニアは、市場で極めて高い評価を得ることになるでしょう。

AIとローコード開発の影響

AIの進化により、単純なコード生成は自動化されつつあります。

しかし、SAPのような複雑な業務システムにおいて、AIが「企業の独自の商習慣」や「複雑な会計処理の意図」までを完全に理解して構築することは、まだ当分先の話です。
むしろ、AIが生成したコードが正しいか判断し、業務要件と照らし合わせて品質を保証する「人間のABAPエンジニア」の重要性は、責任の重さと共に増していくはずです。

ABAPerからのキャリアパス

ABAPを習得した後、その先にはどのようなキャリアが待っているのでしょうか。

プログラミングを極めるだけが道ではありません。

テクニカルアーキテクトへの道

ABAPを極め、さらにSAPシステムの構造(Basis)やデータベース、クラウドインフラの知識を深めることで、「システム全体の設計者」になる道です。
「数千万件のデータをどうすれば10分で処理できるか」「クラウドとオンプレミスをどう安全につなぐか」といった、高度な技術的課題を解決するスペシャリストは、プロジェクトの技術的支柱として、代えの効かない存在になります。

機能(アプリ)コンサルタントへの転身

最もメジャーなキャリアパスの一つです。

開発の現場で培った「業務知識」と「システムの裏側の理解」を武器に、要件定義や業務設計を行うコンサルタントへステップアップします。
「プログラムの中身がわかるコンサルタント」は最強です。

実現不可能な夢物語を語るのではなく、技術的な裏付けのある提案ができるため、顧客からも開発チームからも厚い信頼を得ることができます。

フルスタックSAPエンジニア

近年、SAPの画面は「Fiori(フィオリ)」というWebベースのモダンなUIに変わってきています。

FioriはJavaScript(SAPUI5)で開発されます。
バックエンドのABAPだけでなく、フロントエンドのJavaScriptも扱えるエンジニアは「フルスタックSAPエンジニア」と呼ばれ、希少性が極めて高く、どのようなプロジェクトでも引く手あまたの存在となります。

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まとめ

ABAPは、決して華やかな最新流行の言語ではないかもしれません。

しかし、世界経済を裏側で支える「企業の基幹システム」を動かす、極めて社会的責任の大きな言語です。

S/4HANAへの世界的な移行プロジェクトによる特需、技術と業務知識を掛け合わせた専門性が生む高い報酬、そしてエンジニアからコンサルタントへと広がるキャリアパスです。

これらすべてが、ABAPエンジニアという職業の確固たる価値を証明しています。

IT業界の激しい変化の中で、「手に職をつける」という意味において、これほど堅実で、かつリターンの大きい選択肢はそう多くありません。
もしあなたが、一時の流行り廃りに左右されない、長く太く活躍できるエンジニアを目指すのであれば、ABAPの世界に飛び込むことは、あなたのキャリアにおける最良の投資になるはずです。

よくある質問

AnswerMark

ABAPはSAP社のERPシステム(S/4HANAなど)を開発するために作られた専用言語です。 一般的な言語とは異なり、「通貨」や「日付」の処理といった業務独自の機能が標準装備されているほか、SQLが統合されておりデータベース操作が容易な点が特徴です。また、30年前のプログラムも動作するほどの高い「後方互換性」を持つため、長期運用される基幹システムに最適化されています。

AnswerMark

「需要過多」と「希少性」が主な理由です。 SAPは世界中の大企業で導入されていますが、ABAPを扱えるエンジニアは常に不足しています。また、単にコードが書けるだけでなく、会計や物流などの「業務知識」も必要とされるため、その専門性の高さから市場価値が高騰しやすく、フリーランスの中級者で年収1,000万円前後、上級者では1,500万円以上も目指せます。

AnswerMark

独学での習得環境が限られるため、Web系言語に比べると参入障壁は高めです。 しかし、その分ライバルが少なく、一度スキルを身につければ安定して高収入を得られます。まずは開発会社(SIer)に入社して研修やOJTで学ぶか、SAP関連のプロジェクトに携わるのが一般的なルートです。初級者でも年収400〜500万円程度からスタートできるケースが多いです。

AnswerMark

いいえ、むしろ現在は「特需」の状態です。 多くの企業が古いSAPシステムから最新の「S/4HANA」への移行を進めており(2025年・2027年の崖問題)、今後10年近くは深刻なABAPエンジニア不足が続くと予測されています。また、クラウド環境(SAP BTP)での新しいABAP開発も始まっており、技術の進化とともに活躍の場は広がっています。

AnswerMark

主に3つの道があります。 テクニカルアーキテクト: システム全体の設計やクラウド連携などの技術的課題を解決するスペシャリスト。 SAPコンサルタント: 業務知識を活かし、要件定義や業務設計を行う上流工程の専門家。 フルスタックSAPエンジニア: 最新の画面技術(Fiori/JavaScript)も習得し、フロントからバックエンドまで一貫して開発できる人材。

AnswerMark

主に、企業の独自要件に合わせてSAPの標準機能に追加・修正を行う「アドオン開発」です。 具体的には、経営判断に必要なデータを抽出する「レポート機能」、請求書などを出力する「帳票機能」、銀行や物流システムとデータを連携する「インターフェース」、夜間に大量データを処理する「バッチ処理」などのプログラムを作成します。

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