【完全版】MATLAB・Simulinkとは?初心者からプロまで知るべき全知識|年収・将来性・Pythonとの違いを徹底解説
最終更新日:2025/12/23
エンジニアリングや研究開発の現場で標準とされる「MATLAB(マトマボ/マトラブ)」。 なぜ世界中のトップ企業が使い続けるのか、その全貌を正しく理解している人は意外と多くありません。 「Pythonで十分では?」と思われがちですが、2025年現在、AIや自動運転、宇宙開発においてMATLABは「現代エンジニアリングの共通言語」として不可欠な存在です。単なる計算ソフトではないのです。 本記事では、基礎知識からPythonとの違い、MATLABエンジニアの年収・将来性までを徹底解説。専門的なコードは使わず、初心者からプロまで「なぜ今MATLABなのか」が分かる完全ガイドをお届けします。
目次
MATLABとは?基本概要とできることを初心者向けに解説
MATLABのメリット・デメリット|なぜ企業で選ばれるのか
MATLABの活用事例
MATLABとPythonの違いを徹底比較
MATLABエンジニアの年収・将来性|キャリアパスと市場価値
まとめ
よくある質問
MATLABとは?基本概要とできることを初心者向けに解説
MATLABとは何か?意味・特徴・他言語との違い
由来は「行列の実験室」:思考の速度で動く言語
MATLAB(Matrix Laboratory)という名の通り、最大の特長は「行列(数字の並び)」の扱いに特化している点です。
一般的な言語では「ループ処理」が必要な複雑な計算も、MATLABなら直感的な数式だけで記述可能。エンジニアの数学的思考をそのままプログラムに落とし込める、まさに「思考の速度で動く電卓」です。
単なる言語ではなく「統合開発環境」
もう一つの大きな特徴は、MathWorks社が提供する「統合開発環境(IDE)」であることです。
コード記述からデータ分析、可視化、アプリ作成までがオールインワン。
Pythonなどのように複雑な環境構築に悩むことなく、インストールしたその日から高度な科学技術計算を始められる「完成度の高さ」こそが、MATLABの正体です。
MATLABでできること一覧|数値解析・可視化・システム開発
MATLABができることは多岐にわたりますが、大きく分けて3つの柱があります。
数値解析とアルゴリズム開発
大量のデータを読み込み、統計解析を行い、そこから意味のある法則を見つけ出す作業です。
例えば、実験データのノイズを除去したり、将来の株価変動を予測する数式を作ったりすることができます。
圧倒的な可視化能力
「百聞は一見に如かず」と言いますが、MATLABのグラフ描画能力は世界標準です。
たった一行の命令で、論文にそのまま掲載できるレベルの美しい2D・3Dグラフを作成できます。
データの傾向を瞬時に視覚化できるため、データサイエンティストの強力な武器となります。
アプリ化とシステム実装
作成した計算プログラムを、ボタン一つで操作できる「アプリ」にしたり、他のプログラミング言語(C/C++など)に自動変換して、実際の機械やハードウェアに組み込んだりすることができます。
Simulinkとは?MATLABとの違いと使い分け
MATLABを語る上で外せないのが、兄弟ツールである「Simulink」の存在です。
MATLABが「数式とコード」で世界を記述するツールだとすれば、Simulinkは「ブロックと線」でシステム全体を設計するツールです。
画面上でブロック(機能の箱)を並べ、線でつなぐだけで、自動車のエンジン制御やロボットの動きをシミュレーションできます。
これを「ブロック線図」と呼びます。
「計算脳のMATLAB」と「設計図のSimulink」。
この2つがシームレスに連携することで、MathWorks製品は最強のエンジニアリング・プラットフォームとして機能しているのです。
MATLABのメリット・デメリット|なぜ企業で選ばれるのか
MATLABのメリット5選|企業・研究現場で選ばれる理由
MATLABがプロに選ばれる理由は、以下の5点に集約されます。
信頼性と堅牢性
航空機が空を飛び、自動運転車が公道を走るなど人命に関わるシステム開発において、バグ(不具合)は許されません。
MATLABは長年にわたり、徹底的なテストと検証が行われており、その計算精度の信頼性は世界中の産業界で保証されています。
「MATLABで検証した」という事実は、エンジニアリングの世界で一つの品質証明書となるのです。
Toolbox(ツールボックス)の豊富さ
MATLABには、特定の分野に特化した追加機能群「Toolbox」が大量に用意されています。
画像処理、通信、制御、AI、自動運転など、あらゆる分野の「専門家の知見」が関数としてパッケージ化されています。
これを使えば、ゼロから複雑な数式を組む必要がなく、「車輪の再発明」を避けられます。
ドキュメントの充実度
オープンソース言語との決定的な違いはここにあります。
MathWorks社が提供する公式ドキュメントは、単なる機能説明にとどまらず、その機能を使った背景理論や論文への参照まで網羅されています。
分からないことがあれば公式ヘルプを見れば解決する、という安心感は、業務効率を劇的に向上させます。
モデルベースデザイン(MBD)の中核
現代のモノづくり、特に自動車開発では、実機を作る前にコンピュータ上でシミュレーションを繰り返す「モデルベースデザイン(MBD)」が主流です。
MATLAB/SimulinkはこのMBDにおける世界共通言語(デファクトスタンダード)であり、この環境を使えることがサプライチェーン全体の共通語となっています。
コード生成機能
MATLAB/Simulinkで作ったモデルは、ボタン一つでC言語やC++のコードに自動変換できます。
これにより、試作したアルゴリズムをすぐにマイコンやチップに書き込み、製品として動かすことが可能です。
「プロトタイプ」から「量産」への橋渡しが驚くほどスムーズなのです。
MATLABのデメリット・弱点
コスト面
MATLABは有償の商用ソフトウェアです。
企業向けライセンスは高額になることがあり、導入コストは決して安くありません。
しかし、これには手厚いサポートと品質保証が含まれており、開発工数の削減効果を考えれば、トータルコストは安いと判断されることが多いです。
実行速度とファイルサイズ
かつては「MATLABは遅い」と言われることもありました。
確かに純粋なC++などで書かれた最適化コードに比べれば、実行速度やメモリ消費量で劣る場面はあります。
しかし、近年のバージョン(R2024b以降など)ではエンジンの高速化やPythonとの連携強化が進んでおり、実用上問題になるケースは減っています。
汎用性の範囲
Webアプリケーション(スマホアプリの裏側やWebサイト制作)の開発には不向きです。
あくまで「科学技術計算」と「産業用システム」のためのツールであり、汎用的なITサービスを作るなら他の言語が適しています。
MATLABの活用事例
ここでは、各業界でMATLABがどのような「課題解決」に使われているかを見ていきます。
MATLABの自動車業界での活用事例|自動運転・EV・MBD
自動車業界はMATLAB/Simulinkの最大のユーザーと言っても過言ではありません。
かつてはエンジンの燃焼制御が主戦場でしたが、現在は「SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)」の時代、車の価値がソフトウェアで決まる時代です。
自動運転/ADAS:カメラやレーダーが捉えた情報から、歩行者や白線を認識する画像処理アルゴリズムの開発。
電動化(EV):バッテリーの残量を正確に推定し、劣化を防ぎながら最大限のパワーを引き出す「バッテリーマネジメントシステム(BMS)」の設計。
仮想空間での走行:実車を走らせる前に、コンピュータ上に作った街(デジタルツイン)の中で何万キロもの走行テストを行う際、MathWorksの「RoadRunner」などのツールが活躍しています。
MATLABの航空宇宙分野での活用事例|ロケット・人工衛星
失敗すれば数千億円が失われる宇宙開発において、MATLABは必須ツールです。
ロケット制御:打ち上げ時の軌道計算、風の影響を受けた際の姿勢制御シミュレーション。
NASA/JAXAでの実績:火星探査機が着陸する際の複雑なパラシュート開閉タイミングの決定など、極限環境での物理シミュレーションに使われています。
MATLABの通信・半導体分野での活用事例|5G・6G・FPGA
私たちが普段使っているスマートフォンの通信技術も、MATLAB上で設計されています。
5G/6Gの研究:次世代通信規格を決める際、電波がビルに反射してどう届くか、ノイズをどう除去するかといったシミュレーションが行われます。
半導体設計:スマートフォンや家電に入っているチップ(FPGA/ASIC)を作る際、回路を焼き付ける前の論理設計検証に使われます。
MATLABの医療・バイオ分野での活用事例|画像診断・創薬
人命を救う医療の現場でも、数値解析の力が活かされています。
画像診断支援:MRIやCTスキャンの画像から、がん細胞の特徴をAIで抽出するアルゴリズムの開発。
創薬シミュレーション:新しい薬が体内でどう吸収され、代謝されるか(PK/PD解析)を数式モデルで予測し、動物実験の回数を減らすことに貢献しています。
ブレイン・マシン・インタフェース(BMI):脳波を解析して、念じるだけでロボットアームを動かすような最先端研究の基盤にもなっています。
MATLABの金融分野での活用事例|リスク管理・金融工学
ウォール街や日本のメガバンクでも、MATLABは「計算エンジン」として稼働しています。
リスク管理: リーマンショックのような市場の暴落が起きた際、銀行がどれだけの損害に耐えられるか(ストレステスト)のシミュレーション。
アルゴリズム取引: 1000分の1秒単位で株価の変動を解析し、自動で売買を行うプログラムの構築。
MATLABとPythonの違いを徹底比較
エンジニアにとって永遠のテーマとも言える「MATLABとPython、どっちを学ぶべきか問題」。
2025年の視点で、この議論に終止符を打ちましょう。
結論から言えば、「対立ではなく、共存」が進んでいます。
Pythonの強みとは?MATLABと比較した場合の違い
Pythonは無料(オープンソース)であり、Web開発からAIまで何でもできる汎用性が最大の武器です。
特にディープラーニングの最新論文はPython(PyTorchなど)で実装されることが多く、最先端のAIモデルを試す速さではPythonに軍配が上がります。
スタートアップ企業やWeb系企業ではPythonが圧倒的シェアを誇ります。
MATLABの強みとは?Pythonにはない産業向け特徴
一方、MATLABは「物理的なモノ」を動かすことに特化しています。
ドローンを安定して飛ばすための制御理論や、自動車の安全基準を満たすための厳密なシミュレーション環境は、Pythonのライブラリだけでは構築が困難です。
「動くものを確実に制御する」という分野では、MATLAB/Simulinkの牙城は崩れていません。
MATLABとPythonは併用できる?連携方法と最新動向
現在、両者は歩み寄っています。
MATLABからPythonのライブラリを呼び出してAIモデルを利用したり、逆にPythonで書いたデータ分析パイプラインの中に計算エンジンとしてMATLABを組み込んだりすることが簡単にできるようになっています。
また、「MATLAB Copilot」のようなAIアシスタント機能も登場し、自然言語で指示を出せばMATLABコードを生成してくれるなど、プログラミング体験自体がモダンに進化しています。
結論
Python:Webサービス、純粋なAI研究、コスト重視のプロジェクト向け。
MATLAB:自動車・ロボット・航空宇宙などのハードウェア制御、モデルベース開発、信頼性重視のプロジェクト向け。
MATLABエンジニアの年収・将来性|キャリアパスと市場価値
MATLABスキルの市場価値|なぜ高年収につながるのか
「MATLABができる」というスキルは、一般的なプログラミングスキル(JavaやPHPなど)とは少し性質が異なります。
それは、単にコードが書けるだけでなく、背後にある「数学、物理、制御理論、データ分析」の知識を持っていることの証明になるからです。
この高い専門性が、高年収につながります。
MATLABエンジニアの年収相場
正社員(日本国内)
一般的なITエンジニアの平均年収が400〜500万円台とされる中、MATLAB/Simulinkを扱う求人(モデルベース開発エンジニアなど)は、650万円〜1,000万円クラスの提示が珍しくありません。
特に自動車メーカーやティア1サプライヤー(部品メーカー)、大手電機メーカーの研究開発職では待遇が手厚くなっています。
フリーランス・業務委託
フリーランス市場におけるMATLAB案件の単価は非常に高く、月額単価で80万円〜100万円超というケースも多々あります。
特殊なスキルであるためエンジニアの数が不足しており、市場価値が高騰しやすい傾向にあります。
MATLABの将来性はある?今後の需要とキャリア展望
「Pythonに取って代わられるのではないか?」という懸念が囁かれることもありますが、産業界の現実はもっとシビアです。
自動車や航空機のような巨大なシステムは、数十年単位でメンテナンスが必要であり、MATLAB/Simulinkで構築された膨大な資産(モデル)を明日からPythonに置き換えることは不可能です。
さらに、デジタルツインやIoTの進展により、「現実世界の物理データを解析し、シミュレーションする」需要は爆発的に増えています。
「AI × MATLAB」、「ハードウェア制御 × MATLAB」という組み合わせにおいて、このツールの将来性は今後も極めて明るいと言えるでしょう。
まとめ
MATLABは、単なる「高機能な電卓」ではありません。
それは、エンジニアの頭の中にある抽象的なアイデアを、具体的な数値、グラフ、そして動くシステムへと変換してくれる、最強のパートナーです。
初心者にとっては、「行列」や「シミュレーション」といった言葉に敷居の高さを感じるかもしれません。
しかし、MATLABは本来、プログラミングの専門家ではない科学者やエンジニアが、自分の専門分野(車、薬、宇宙など)の研究に没頭できるように作られたツールです。
直感的な記述と、美しい可視化機能は、あなたの学習を強力にサポートしてくれるはずです。
AI全盛の時代だからこそ、物理世界とデジタル世界をつなぐMATLABの価値は高まっています。
このツールを使いこなせるようになった時、あなたのエンジニアとしての市場価値は、間違いなくワンランク上のものになっているでしょう。
よくある質問
プログラミング未経験ですが、MATLABは習得できますか?
はい、習得可能です。
MATLABは文法が非常にシンプルで、英語の文章に近い形で記述できます。
また、C言語などのようにメモリ管理や変数の型宣言を厳密に行う必要がないため、プログラミング未経験者が最初に触れる言語としても適しています。
「エラーが出ても、何が悪いのかグラフですぐ分かる」という点は、学習者にとって大きな助けになります。
MATLAB Home(個人版)で商用利用や副業はできますか?
いいえ、できません。
安価で購入できる「MATLAB Home」ライセンスは、あくまで個人の趣味や学習、自己啓発のためのものです。
副業やフリーランス業務など、対価を得る活動に使用する場合は、商用ライセンス(Standard)などを購入する必要があります。
ライセンス違反にならないよう注意しましょう。
PythonがあればMATLABは不要という意見を聞きますが本当ですか?
分野によります。
Web開発や小規模なデータ分析であればPythonで十分な場合が多いですが、自動車・航空宇宙・ロボット制御などの「モデルベース開発」や「シミュレーション」の分野では、MATLAB/Simulinkが業界標準であり、代替が困難です。
プロの現場では「適材適所」で使い分けられており、両方使えるエンジニアが最も重宝されます。
MATLABを学ぶために数学の知識はどの程度必要ですか?
高度なアルゴリズムを自分で開発するには数学が必要ですが、ツールを使うだけであれば、高校数学レベル(特に行列、ベクトル、微分の基礎)の知識があればスタートできます。
MATLABを使っているうちに、「線形代数」や「微分方程式」が実際にどう役立つのかが視覚的に理解でき、逆に数学が好きになるという人も多くいます。
MATLABはMacやLinuxでも使えますか?
はい、Windows、Mac、Linuxの主要なOSすべてに対応しています。
また、インストール不要でWebブラウザ上で動作する「MATLAB Online」も提供されており、インターネット環境さえあれば、iPadや低スペックなPCからでも本格的な解析を行うことが可能です。
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