フリーランスの介護と仕事の両立|使える制度と稼働設計の手順
最終更新日:2026/09/27
フリーランスの介護と仕事の両立とは、雇用者向けの介護休業制度が使えない前提で、介護保険サービスと契約条件の調整によって稼働を組み直すことです。親の介護が始まったエンジニアに向けて、使える制度と使えない制度の切り分け、初動の動き方、中断に強い案件の選び方を整理します。
先に結論
フリーランスは介護休業・介護休暇・介護休業給付を使えません。いずれも雇用された労働者と雇用保険の制度です
代わりに使えるのは、親側の制度である介護保険サービスと、フリーランス法第13条にもとづく発注事業者の配慮です
6か月以上の継続的業務委託であれば発注者に配慮義務、6か月未満なら努力義務。希望どおりの配慮が必ず通る義務ではなく、申し出は自分から行う必要があります
要介護認定は申請から原則30日以内に通知されます。結果を待つ間も、暫定のケアプランでサービスを使い始められるケースがあります
案件は稼働日数より中断耐性で選びます。オンコール・障害の一次受け・客先常駐は、介護の初期と特に相性が悪い組み合わせです
最初の相談先は地域包括支援センターです。全国5,487か所(令和7年4月末現在)に設置されています
この記事でわかること
フリーランスエンジニアが使える介護関連の制度と、使えない制度の境界
介護が始まった直後の90日で、介護側と仕事側それぞれにやること
エンジニアの職種・工程別に見た「中断に強い仕事・弱い仕事」の分類
取引先へ稼働の配慮を申し出るときの伝え方と、契約書で確認しておく条項
対象は、すでに独立していて週3〜5日の準委任案件で働いているエンジニア、およびこれから親の介護が視野に入ってきた40〜50代の方です。介護の医学的な話ではなく、契約と稼働の設計に絞って扱います。
目次
フリーランスに介護休業はない|使える制度・使えない制度の全体像
介護の初動90日でやること|要介護認定と地域包括支援センター
中断耐性で案件を選ぶ|エンジニア職種・工程別の向き不向き
稼働設計の作り方|「読めない時間」から逆算する
フリーランス法の育児介護配慮を使う|申し出方と契約条項
ケース別|遠距離・同居・認知症・施設入所後
よくある失敗と対策
実践チェックリスト|介護が始まった最初の2週間
まとめ
よくある質問
フリーランスに介護休業はない|使える制度・使えない制度の全体像
結論から書くと、会社員が使う介護の制度はフリーランスにはほぼ届きません。ただし親本人が使う介護保険サービスは家族の就業形態に関係なく使えるため、「自分の制度」ではなく「親の制度」を軸に組み立てるのが現実的です。
働きながら介護をしている人は全国で365万人、介護・看護を理由に前職を離職した人は10.6万人。いずれも総務省の令和4年就業構造基本調査による全国集計で、離職者数は2022年10月までの1年間の数字です。この調査は5年周期のため、執筆時点ではこれが最新版になります。離職者の多さは、制度の有無だけでなく、制度と働き方が噛み合いにくい実態を示している可能性があります。
会社員が使える制度とフリーランスの違い
介護休業(対象家族1人につき通算93日)と介護休暇(年5日)は、育児・介護休業法にもとづく制度です。この法律が対象としているのは労働者であり、業務委託で働くフリーランスは適用の外にあります。
介護休業給付も同じです。これは雇用保険の雇用継続給付の一種で、雇用保険の被保険者であることが前提になります。フリーランスは雇用保険に加入していないため、休業中の所得補填は制度として存在しません。ここは期待せず、後述する資金面の備えで埋める領域です。
使える制度:介護保険サービスと地域包括支援センター
一方で、介護保険サービスは親本人が使う制度なので、子がフリーランスかどうかは関係ありません。介護保険の被保険者は、65歳以上の第1号被保険者と、40〜64歳で医療保険に加入している第2号被保険者に分かれます。第2号の場合は、脳血管疾患など老化が原因とされる特定疾病によって要介護・要支援状態になったときに限ってサービスを使えます(厚生労働省介護保険とは)。
相談窓口として最初に押さえるべきなのが地域包括支援センターです。高齢者の総合相談、権利擁護、介護予防の援助などを担う市町村設置の機関で、厚生労働省の公表によれば令和7年4月末現在で全国5,487か所、ブランチを含めると7,374か所あります。相談は無料で、本人でなく家族からの相談も受け付けます。
条件付きで使える制度:税制上の控除
税制面は「使えることもある」という位置づけで、要件を確認せずに当て込むと外れます。
介護サービスの自己負担分のうち、一定のものは医療費控除の対象になります。居宅サービスは国税庁 No.1127、施設サービスは国税庁 No.1125に整理があり、施設サービスでは特別養護老人ホームは自己負担額の2分の1、介護老人保健施設や介護医療院は全額が対象とされています。対象になるかはサービスの類型と利用の組み合わせで変わるため、領収書に記載された医療費控除対象額を確認してください。
生計を一にする親の分を自分が負担した場合は、自分の申告に合算できます。「生計を一にする」は同居に限らず、生活費や療養費を継続的に負担しているといった実態で判断されるため、迷う場合は税務署か税理士に確認するのが確実です。計算方法は医療費控除とは|対象・計算式・申告手順をフリーランスエンジニア向けに解説にまとめています。
注意したいのが障害者控除です。要介護認定を受けただけでは障害者控除の対象にはなりません。国税庁 No.1185が明示しているとおり、介護保険法の要介護認定と所得税法上の障害者認定は別の制度で、控除を受けるには市町村長等から別途障害者認定を受けている必要があります。控除額は障害者27万円、特別障害者40万円、同居特別障害者75万円です(国税庁 No.1160)。この点はネット上の解説で混同されていることが多いので、自治体の窓口で認定書の発行可否を確認してください。
以下が制度の対比です。
制度 | フリーランスの扱い | 補足 |
|---|---|---|
介護休業(通算93日) | 使えない | 育児・介護休業法は労働者が対象 |
介護休暇(年5日) | 使えない | 同上 |
介護休業給付 | 使えない | 雇用保険の給付。被保険者ではないため |
介護保険サービス | 使える(親側の制度) | 要介護認定を受けた本人が利用 |
地域包括支援センターの相談 | 使える | 無料。家族からの相談も可 |
発注者の育児介護等への配慮 | 使える | フリーランス法第13条。申し出が起点 |
医療費控除 | 条件付きで使える | 対象となるサービスの範囲に制限あり |
障害者控除 | 条件付きで使える | 市町村長等の障害者認定が別途必要 |
国民年金保険料の免除 | 介護を理由とする免除はない | 所得を基準とした免除・納付猶予は別にある |
国民健康保険料の減免 | 自治体による | 所得が大きく減った場合の減免制度がある自治体も |
国民年金については、介護を理由とした専用の免除制度はありません。ただし所得が下がれば申請免除や納付猶予の対象になり得ます(日本年金機構国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度)。国民健康保険の側も、所得の減少を理由とした減免を設けている自治体があります。要件と申請期限は自治体ごとに異なり、年度で変わることもあるため、最新年度の案内を必ず確認してください。手順の全体像は国民健康保険の減免・軽減|フリーランスの申請手順と必要書類【令和8年度】にまとめています。
ミニFAQ:Q. 親が要介護認定を受けていない段階でも、地域包括支援センターに相談していいですか。
A. 相談できます。認定申請そのものの窓口案内や、申請前に使える見守り・配食などの地域サービスの紹介も業務範囲に含まれます。「まだ大したことはない」段階での相談がもっとも選択肢が多く残ります。
介護の初動90日でやること|要介護認定と地域包括支援センター
介護は、始まり方がほぼ常に突発です。転倒による骨折や脳血管疾患での入院がきっかけになり、退院日から在宅介護が始まる。この初動90日をどう設計するかで、その後に仕事を続けられるかがかなり決まります。
申請から認定通知まで原則30日。待つ間にできること
要介護認定の申請先は、お住まいの市区町村の窓口です。厚生労働省の介護サービス利用までの流れによれば、申請から認定の通知までは原則30日以内に行われます。認定は要支援1・2から要介護1〜5までの7段階と非該当に分かれます。
30日という数字は覚えておく価値があります。というのも、この1か月は「何も決まらないのに呼び出しだけが多い」時期だからです。入院中の面談、退院前カンファレンス、住宅改修の下見、ケアマネジャーとの初回面談。いずれも平日の日中に入ります。
認定結果が出るまでサービスを一切使えないわけではありません。暫定のケアプランを作って先行して利用を始め、認定後に精算する運用が取られるケースがあります。ただしこの扱いは市区町村やサービス事業者によって運用が異なり、認定結果が想定より軽く出た場合は差額が自己負担になることもあります。可否と条件は地域包括支援センターに確認してください。
ケアプランの作成主体は要介護度で変わります。要支援1・2は地域包括支援センター、要介護1以上は居宅介護支援事業者に依頼し、介護支援専門員(ケアマネジャー、利用者の相談に応じてサービス計画を作る専門職)が作成します。
初動で仕事側にやること
介護側の初動と並行して、仕事側にも着手が要ります。順番としては次のとおりです。
今の契約の残期間と更新月を確認する。配慮の申し出も稼働変更の交渉も、更新月の2〜3か月前が一般に相談しやすい目安とされます
稼働を落とす場合の下限を決める。生活費と固定費から逆算した「これ以下にはできない」ラインを先に置きます
取引先に申し出る。後述のフリーランス法第13条にもとづく配慮の申し出です
新規の商談を一時的に止める。認定結果とケアプランが出るまでは、自分の稼働可能量を見積もれません
4番は見落とされがちです。介護の初期に営業を続けると、稼働できる前提で条件を握ってしまい、後から下げる交渉が二重に発生します。
地域包括支援センターに最初に相談する
繰り返しになりますが、独立した相談先を持たないまま自力で調べる期間が長いほど、仕事側の損失が膨らみます。センターでは要介護認定の申請代行にも対応しているため、平日の窓口に行けない状況でも進められる部分があります。
中断耐性で案件を選ぶ|エンジニア職種・工程別の向き不向き
介護と両立しやすい案件を「週3日の案件」と言い換える解説をよく見かけますが、それでは足りません。介護の負荷の本質は総時間ではなく、呼び出しのタイミングが読めないことにあります。週3日でも、その3日に必ず張り付いていなければならない仕事なら回りません。
そこで稼働日数ではなく、中断耐性という軸で案件を見ます。ここでいう中断耐性とは、急な離席や予定変更が起きても、チームや納期への影響を小さく抑えやすい性質を指します。
中断に強い仕事・弱い仕事の分類
仕事の種類 | 中断耐性 | 介護初期との相性 | 理由 |
|---|---|---|---|
設計・技術調査・ドキュメント整備 | 高 | 良い | 着手と中断の単位を自分で決められる |
バッチ・データ基盤の実装 | 高 | 良い | 非同期に進み、即時応答を求められる場面が少ない |
スクラム内の機能開発 | 中 | 条件付き | デイリーとスプリント境界は固定だが、実装時間帯はずらせる |
コードレビュー・技術相談 | 中 | 条件付き | 単位は小さいが、滞留するとチームが止まる |
PM・進行管理 | 中〜低 | 要検討 | 会議が多く、代替が効きにくい |
障害の一次対応・オンコール | 低 | 悪い | 呼び出しが介護の呼び出しと衝突する |
客先常駐・オンサイト前提 | 低 | 悪い | 移動時間が固定費になり、突発の離席が難しい |
この表は職種の優劣を示すものではありません。同じバックエンドエンジニアでも、担当工程が設計寄りか運用寄りかで中断耐性が大きく変わる、という話です。契約前に「自分の担当は表のどこに入るか」を確認してください。
常駐とリモートの違いは客先常駐とフルリモート案件の違い|単価・働き方・向いている人で選ぶ、フルリモート案件の探し方はフルリモート フリーランスエンジニアの案件事情|探し方・単価相場・向いている職種を解説で扱っています。
避けたい条件と、確認しておきたい条件
避けたいのは、オンコール当番、深夜のリリース立ち会い、週1回以上の出社義務、そして「チーム最後の砦」になっている役割です。最後のものは契約書に書かれないため、参画後に判明します。面談で「この領域を見ている人は他に何人いますか」と聞いておくと見分けがつきます。
逆に確認しておきたいのは、コアタイムの有無、稼働時間の精算幅、そして稼働変更を協議できる条項です。精算幅の考え方は準委任の精算幅とは|140-180hの意味と超過・控除の計算方法にまとめています。下限に余裕のある精算幅なら、月内で時間を前後に寄せて調整できます。
ミニFAQ:Q. 中断耐性の高い案件は単価が下がりませんか。
A. 工程が設計寄りになるほど単価が下がるとは限りません。公開されている案件情報を見るかぎり、工程よりも常駐条件やオンコールの有無のほうが提示単価の差につながりやすい傾向があります。ただし稼働日数を減らせば月額報酬は下がるため、単価そのものを維持する交渉が必要です。手順は稼働を減らす交渉で単価を維持|週5から週3への移行手順を参照してください。
稼働設計の作り方|「読めない時間」から逆算する
稼働設計は、空いている時間を仕事で埋めるのではなく、読めない時間をあらかじめ空けておく方向で作ります。介護は予定が入るのではなく、予定が壊れるからです。
介護フェーズ別の稼働モデル
フェーズ | 期間の目安 | 介護側の負荷 | 稼働の置き方 |
|---|---|---|---|
急性期(入院〜認定申請) | 2〜8週間 | 最大。平日日中の呼び出しが集中 | 新規着手を止め、既存案件は一時的な稼働減を申し出る |
移行期(ケアプラン確定〜利用開始) | 1〜2か月 | 高いが予定が立ち始める | 非常駐・週3〜4日の案件に寄せる |
安定期 | 数か月〜数年 | 予定化できる | 稼働を戻す。ただし再急性期用の余白を残す |
再急性期(容体変化・施設入所) | 都度・数週間 | 一時的に最大 | 契約に稼働変更の協議条項を入れておき、都度発動する |
期間はあくまで設計上の目安で、要介護度・同居か別居か・きょうだいの分担によって幅があります。ポイントは、安定期に稼働を100%まで戻さないことです。再急性期は必ず来ます。安定期に週5で埋めてしまうと、次の急変で契約ごと失うことになりかねません。
週3・週4という稼働単位の実情は、週4稼働のフリーランス案件|週3・週5との違い・単価目安・探し方が参考になります。
収入の落ち込みへの備え
稼働を下げれば、月額の報酬はそのぶん下がります。フリーランスには介護休業給付のような所得補填がないため、この落ち込みは事前の備えで吸収するしかありません。
具体的には、生活防衛資金の厚みと、単価の維持です。前者の目安はフリーランスエンジニアの生活防衛資金|目安・保管先・積立と取り崩しで整理しています。
就業不能への備えを保険で持つ選択肢もありますが、注意点があります。この種の保険は多くが被保険者本人の病気やけがによる就業不能を支払事由としているため、家族の介護による減収は対象外になりやすい設計です。加入前に約款の支払事由を確認してください。商品ごとの差はフリーランスの所得補償保険と就業不能保険|違いと選び方で確認できます。
稼働を下げる前に、今の自分の単価が市場水準に対してどこにあるかを把握しておくと交渉の材料になります。相場の考え方は【2026年最新版】フリーランスエンジニアの単価相場と単価の上げ方とは?にまとめており、無料のフリーランスエンジニア単価診断でも目安を確認できます。週3〜4日や非常駐の条件で探す場合は、フリコンの案件一覧から条件で絞り込むのが早い方法です。
フリーランス法の育児介護配慮を使う|申し出方と契約条項
2024年11月1日に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の第13条は、発注事業者に対して、フリーランスが妊娠・出産・育児・介護と業務を両立できるよう必要な配慮をすることを定めています。制度の全体像は厚生労働省のフリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へにまとまっています。
6か月以上は配慮義務、6か月未満は努力義務
この配慮の強さは契約期間で変わります。
6か月以上の継続的業務委託:フリーランスからの申出に応じ、必要な配慮をすることが義務
6か月未満の業務委託:必要な配慮をするよう努めなければならない(努力義務)
契約の更新によって通算6か月以上になる場合も継続的業務委託に含まれます。準委任で月次更新を重ねている案件は、この条件を満たしていることが多いはずです。
重要なのは、配慮は自動では始まらないという点です。起点はフリーランス側からの申出であり、申し出ないかぎり発注者に検討義務は生じません。また、配慮義務といっても求めた内容がそのまま通ることまでは保証されません。対応できない場合に、発注者はその理由を説明することが求められる、という建て付けです。ハラスメント対策や両立配慮の取組事例は、厚生労働省のフリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドラインの改定についてからたどれます。
申し出の伝え方
交渉として通りやすいのは、事情の説明ではなく代替案の提示です。次の4点を1つのメッセージにまとめると、先方が社内で稟議に乗せやすくなります。
状況:家族の介護が始まり、平日日中に予定外の対応が入る見込みであること(診断名や詳細な病状まで書く必要はありません)
期間の見立て:たとえば「当面3か月程度は不規則、その後は安定する見込み」のように幅を示す
具体的な依頼:定例会議の時間帯変更、稼働日を週5から週4へ、オンコール当番からの一時的な除外など、対象を1〜2点に絞る
代替案:当番を外れるかわりに設計レビューを厚く持つ、稼働日を減らすかわりに引き継ぎドキュメントを整備する、といった埋め合わせ
依頼を3つも4つも並べると、先方は全体を「難しい」と判断しがちです。効果の大きいものから1〜2点に絞るほうが通ります。エージェント経由の案件なら、担当者を介したほうが早いこともあります。伝え方はエージェント担当者との付き合い方|希望条件が通る伝え方と信頼構築のコツを参照してください。
契約書で確認しておく条項
介護が視野に入っている段階なら、契約締結時に次の条項を見ておきます。
中途解除の予告期間:自分から解除する場合に何日前の通知が必要か
稼働時間・稼働日の変更手続:協議で変更できるか、変更には書面が要るか
精算幅と下限:稼働が下限を割った月の扱い
再委託の可否:一時的に他のエンジニアへ回せる余地があるか
各条項の読み方は業務委託契約書の確認ポイント|フリーランスエンジニアが締結前に見る条項とチェックリスト、契約類型による責任の違いは準委任契約と請負契約の違い|フリーランスエンジニアが知るべきリスクと注意点にまとめています。請負だと成果物の完成責任が伴うため、稼働が読めない時期は準委任のほうが調整余地が大きくなります。
配慮の申出を理由に一方的な単価引き下げや契約変更を通告された場合の対応は、単価引き下げ・契約変更を一方的通告された時の対応|フリーランス新法・取適法の守られるラインで扱っています。
ケース別|遠距離・同居・認知症・施設入所後
遠距離介護
新幹線や飛行機での移動が入るため、失われるのは介護時間ではなく移動時間です。月1〜2回の帰省を前提に、その週だけ稼働を落とせる契約にしておきます。移動中に作業できる仕事(設計・ドキュメント・レビュー)の比率を上げると、移動時間の損失をある程度は回収できます。完全リモートであることがほぼ必須条件になります。
同居・在宅介護
呼び出しの頻度は高いものの、1回あたりは短時間です。総稼働時間は確保できても、まとまった集中時間が取れないという形の負荷になります。デイサービスの利用日に会議と設計作業を寄せ、それ以外の日は細かく分割できる作業を置く、という配分が機能しやすい組み方です。
認知症で見守りが必要な場合
もっとも稼働設計が難しいケースです。目を離せない時間帯が読めず、夜間の対応が入ることもあります。この段階では稼働を積極的に下げ、ショートステイや小規模多機能型居宅介護の利用を前提に組み直します。仕事量の調整だけで乗り切ろうとせず、ケアマネジャーに「就業を継続したい」と明示して計画を作ってもらうのが要点です。
施設入所が決まった後
入所後は呼び出しの頻度が大きく下がり、稼働を戻せる局面に入ります。ただし体調変化での呼び出しはなくなりません。いきなり週5の常駐に戻すのではなく、週4や非常駐から段階的に戻すほうが安全です。年代別の案件動向は40代フリーランスエンジニアになるには|案件動向・単価相場・独立の進め方を解説、50代エンジニアの選択肢|フリーランス転身の現実・案件動向・継続のコツを解説にまとめています。
なお、子育てとの両立は介護とは負荷のかかり方が違います。子の年齢に応じた稼働設計は子育て中のフリーランスエンジニアの案件の選び方|稼働・条件・年齢別、出産・育児期の制度は女性フリーランスエンジニアの働き方|出産・育児と両立する案件選び・制度・契約の実際を参照してください。育児は負荷が逓減していくのに対し、介護は終期が読めず逓増しうる点が設計上の最大の違いです。
よくある失敗と対策
取引先に黙って抱え込む。 もっとも多い失敗です。稼働が落ちた理由を伝えないまま成果だけが下がると、信頼の問題として処理されます。フリーランス法第13条は申出を起点とする制度なので、黙っている間は配慮義務すら発生しません。詳細な病状を明かす必要はなく、「家族の介護で平日日中に不定期の対応が入る」程度の粒度で十分です。
案件を全部止めてしまう。 急性期に慌てて全契約を終了すると、安定期に戻るときゼロから営業をやり直すことになります。稼働を減らす交渉のほうが、契約を切って取り直すよりコストが小さいのが通常です。まずは減稼働を申し出てください。
認定結果を待ってから動く。 通知まで原則30日かかります。この間に暫定ケアプランで利用を始められるケースがあるほか、配食や見守りなど認定不要の地域サービスもあります。待っている30日は、仕事側の調整に使うべき時間です。
きょうだい間の分担を決めずに走り出す。 最初に動いた人に負荷が集中し、そのまま固定される構図が起きがちです。「平日日中は自分、週末は別の家族」のように曜日で切るほうが、都度の調整より破綻しにくくなります。フリーランスは「時間の融通が利く」と見られて負担が寄りやすいため、早い段階で線を引いておいてください。
実践チェックリスト|介護が始まった最初の2週間
介護側と仕事側を並行で進めるためのチェックリストです。
介護側
地域包括支援センターの場所と電話番号を調べた
市区町村の窓口で要介護認定を申請した(通知まで原則30日)
認定前に暫定ケアプランで使えるサービスがあるか確認した
介護保険被保険者証、健康保険証、お薬手帳の保管場所を把握した
きょうだい・親族との分担を曜日ベースで決めた
仕事側
現契約の残期間と更新月を確認した
生活費から逆算した稼働の下限を決めた
取引先へ配慮を申し出た(依頼は1〜2点に絞る)
オンコール・当番からの一時的な除外を相談した
契約書の中途解除予告期間と稼働変更手続を確認した
新規商談を一時停止した
生活防衛資金の残高と、何か月分に相当するかを確認した
お金側
所得減少による国民健康保険料の減免制度が自治体にあるか確認した
国民年金の免除・納付猶予の対象になるか確認した
親の介護費用のうち医療費控除の対象になるものを把握した
市町村の障害者控除対象者認定書が取得できるか窓口に確認した
まとめ
フリーランスの介護と仕事の両立は、「自分が使える休業制度はない」という前提に立ち、親側の介護保険サービスと発注者への配慮の申出、そして中断耐性で選んだ案件の3つで組み立てます。稼働日数を減らすことより、読めない時間を先に空けておくことが設計の中心です。
介護休業・介護休暇・介護休業給付は労働者と雇用保険の制度で、フリーランスは対象外
介護保険サービスは親本人の制度なので、家族の就業形態に関係なく使える
要介護認定は申請から原則30日以内に通知。待つ間も暫定ケアプランで動ける場合がある
フリーランス法第13条は、6か月以上の継続的業務委託で配慮義務、6か月未満で努力義務。申出が起点
案件は稼働日数ではなく中断耐性で選ぶ。オンコール・障害一次受け・客先常駐は介護初期と相性が悪い
安定期に稼働を100%まで戻さず、再急性期に備えた余白を残す
要介護認定だけでは障害者控除の対象にならない。市町村長等の障害者認定が別途必要
まずやることは3つです。①地域包括支援センターに連絡する、②現契約の更新月と解除予告期間を確認する、③取引先への配慮申出の内容を1〜2点に絞って準備する。この3つを同じ週に済ませると、稼働をどこまで落とすかの見積もりが立ちます。
税務・社会保険の取り扱いは個別の事情で結論が変わります。控除の適用可否や自治体の減免制度については、税理士や市区町村の窓口で確認することをおすすめします。
参照した一次情報
厚生労働省 介護保険とは/介護サービス利用までの流れ
厚生労働省 地域包括支援センター
厚生労働省 育児・介護休業法について
ハローワークインターネットサービス 雇用継続給付
総務省 令和4年就業構造基本調査
日本年金機構 国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度
よくある質問
介護のために稼働を減らすと、契約を切られますか
申出をしたこと自体のみを理由に不利益な扱いをすることは、制度の趣旨との関係で慎重な判断が必要になる領域です。ただし6か月以上の継続的業務委託であっても、配慮義務は「求めたとおりに応じる義務」ではないため、稼働の希望が通らず更新に至らない可能性は残ります。だからこそ、代替案をセットで出すことが実務上は重要になります。
配慮を申し出るとき、診断書や要介護認定の結果を見せる必要はありますか
法律上、証明書類の提出が申出の要件とされているわけではありません。ただし発注者が社内で検討・記録する都合上、期間の見立てなど一定の情報提供を求められることはあります。病名や詳しい病状まで開示する必要はなく、「対応が必要な期間の見込み」を伝えれば足りるのが通常です。
発注者が配慮に応じてくれない場合、どこに相談できますか
フリーランス・トラブル110番などの相談窓口があります。厚生労働省のフリーランス向けページから相談先をたどれます。まずは配慮を求めた日時と内容、先方の回答を記録に残しておいてください。
遠距離介護の交通費は経費になりますか
通常は必要経費になりません。帰省のための移動は業務と直接の関係がない私的な支出にあたるためです。移動中に案件の作業をしたという事情があっても、移動の主目的が介護であれば同様に考えられます。個別の事情によって判断が変わることもあるため、迷う支出は税務署か税理士に確認してください。
親の介護費用を自分が負担した場合、自分の確定申告で控除できますか
生計を一にする親族の医療費であれば、自分が支払った分を医療費控除に合算できます。介護サービスについては対象になるものとならないものがあり、範囲は国税庁のNo.1127(居宅サービス)とNo.1125(施設サービス)で確認してください。介護サービス費のすべてが対象になるわけではない点に注意が必要です。
要介護認定を受けたら障害者控除の対象になりますか
なりません。要介護認定と所得税法上の障害者認定は別の制度です。控除を受けるには、市町村長等から障害の程度が一定の基準に準ずるものとして認定を受ける必要があります。多くの自治体が「障害者控除対象者認定書」の名称で発行しているため、要介護認定を受けたら自治体窓口で発行可否を確認するとよいでしょう。
介護を理由に契約を中途解除する場合、違約金は発生しますか
契約書の定めによります。準委任では予告期間を守れば違約金なしで解除できる定めが一般的ですが、請負で成果物の完成義務を負っている場合は損害賠償の議論になり得ます。締結時に予告期間と解除条項を確認しておいてください。
エージェントに介護のことを伝えるべきですか
伝えたほうが条件に合う案件を提案してもらいやすくなります。稼働日数だけでなく「オンコールなし」「定例は午前中のみ」といった条件まで具体的に伝えると精度が上がります。開示範囲が気になる場合は、「家庭の事情で平日日中に不定期の対応がある」という表現でも要件は伝わります。
会社員に戻ったほうが制度面では有利ですか
制度だけを見れば、介護休業・介護休暇・介護休業給付が使える雇用のほうが手厚いのは事実です。一方で、勤務時間と勤務場所の裁量はフリーランスのほうが大きくなります。制度の有無で決めるのではなく、通える範囲の求人があるか、想定する介護期間が93日の介護休業で収まるかを見て判断してください。介護は数年に及ぶことも珍しくありません。
認定結果が出るまで、介護サービスは一切使えませんか
暫定のケアプランを作成して先行利用し、認定後に精算する運用が取られる場合があります。ただし認定結果が想定より軽く出ると自己負担が増えることもあるため、可否と条件を地域包括支援センターまたはケアマネジャーに必ず確認してください。認定を要しない配食・見守りなどの地域サービスは、申請中でも利用できます。


