医療費控除とは|対象・計算式・申告手順をフリーランスエンジニア向けに解説
最終更新日:2026/07/06
医療費控除とは、1年間に支払った医療費が一定額を超えたときに、その超過分を所得から差し引ける所得控除です。会社員と違って年末調整で処理できないフリーランスエンジニアは、自分で確定申告に組み込む必要があります。「どこまでが対象?」「いくら戻る?」「経費と何が違う?」といった疑問に、令和8年分の申告を想定して答えます。
先に結論
医療費控除は、1年間の医療費が一定額を超えたときに超過分を所得から差し引ける制度です。フリーランスは年末調整ではなく、確定申告で申請します。
医療費控除は所得控除の一つ。事業経費とは仕組みが違い、家事費として支払った医療費を対象にする
控除額 = 支払った医療費 − 保険金等 − 10万円(総所得金額等の合計額200万円未満は5%)
支給限度は年間200万円まで。生計を一にする家族の分をまとめて申告できる
セルフメディケーション税制とは選択適用。同じ年に両方は使えない
医療費控除は原則として明細書の提出で申告する。領収書自体は提出不要だが、5年間の保存が必要
対象は原則として治療・療養のための支出で、予防・美容・健康増進目的の費用は対象外
副業エンジニアも対象。給与所得と事業所得を合算した確定申告のなかで組み込む
この記事でわかること
医療費控除の基本と、セルフメディケーション税制との違い
対象になる費用・ならない費用の具体的な判定基準
計算式と、フリーランスエンジニアの想定年収での還付目安
経費との違いや家族分の合算など、フリーランス特有の実務ポイント7つ
令和8年分の確定申告での具体的な申請手順(e-Tax対応)
目次
医療費控除の基本を押さえる
医療費控除の対象になる費用・ならない費用
計算方法と控除額の目安
フリーランスエンジニアが押さえるべき7つの実務ポイント
確定申告での申請手順(e-Tax対応)
ケース別解説:フリーランスエンジニアの状況別ポイント
よくある失敗と対策
実践チェックリスト・整理表
まとめ
よくある質問
医療費控除の基本を押さえる
まずは制度の全体像を把握します。所得税・住民税の両方に影響する所得控除であり、医療費が家計を圧迫した年の負担を薄めるための仕組みです。
医療費控除とは
医療費控除は、自己または生計を一にする配偶者・親族のために支払った医療費のうち、一定額を超える部分を所得から差し引ける制度です。事業経費のように所得を計算する段階ではなく、所得控除として課税所得を出す前段階で差し引きます。詳しくは国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)をご確認ください。
年末調整では処理できないため、給与所得者であっても確定申告が必要になる項目です。会社員から独立したエンジニアが「そういえば医療費控除ってどうやるんだっけ」と迷いやすい理由もここにあります。
セルフメディケーション税制との違い
セルフメディケーション税制は、対象となるOTC医薬品(スイッチOTC医薬品等)の購入額が年12,000円を超えた場合に、超過分(上限88,000円)を所得控除できる制度です。医療費控除の特例として位置づけられており、同じ年に両方を使うことはできません。
判断の目安は次のとおりです。
状況 | 選ぶ制度 |
|---|---|
入院・手術・歯科治療などで医療費が10万円超 | 通常の医療費控除 |
医療費は少ないがOTC医薬品を頻繁に購入した | セルフメディケーション税制 |
健康診断・予防接種を受けている | セルフメディケーション税制の適用要件を満たす可能性あり |
詳細は国税庁 No.1129 特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(セルフメディケーション税制)を参照してください。両制度は毎年どちらか有利な方を選び直せます。
医療費控除で減る税金の目安
概算では、控除額 ×(所得税率+住民税率10%)が目安です。所得税率は課税所得によって5%〜45%と幅があるため、同じ控除額でも高所得の人ほど還付額は大きくなります。実際は復興特別所得税や翌年度住民税への反映で多少前後します。
例えば、課税所得330万円超〜695万円以下(所得税率20%)のフリーランスエンジニアが医療費控除を10万円受けた場合、目安として30,000円程度の税負担軽減が見込めます(所得税20%+住民税10%、復興特別所得税は含まない概算)。
ミニFAQ:会社員時代に医療費控除を受けたことがある人でも、独立後は同じ手順で申告できますか?
基本の考え方は同じですが、独立後は確定申告書全体のなかに組み込む必要があります。年末調整だけで完結していた会社員時代とは違い、事業所得の計算と一緒に処理する点だけ意識してください。
医療費控除の対象になる費用・ならない費用
対象範囲の線引きが医療費控除の最大のつまずきどころです。「治療のためかどうか」が原則の判定軸になります。
対象になる費用
対象は、治療または療養のために社会通念上必要と認められる医療費です。代表的なものを整理します。
病院・診療所での診察料、治療費、入院費
医師の指示による治療用医薬品の代金
治療のためのマッサージ・鍼灸・柔道整復(国家資格者による施術)
妊娠・出産費用(定期健診・入院・分娩費用)
治療のための歯科治療費(金・銀・ポーセレンなど一般的な材料も含む)
通院のための公共交通機関の交通費(バス・電車)
治療目的のコンタクトレンズ・眼鏡(弱視・斜視治療用など医師の指示があるもの)
介護保険適用の在宅サービス・施設サービスのうち医療系のもの
判断に迷った際は国税庁 No.1122 医療費控除の対象となる医療費で個別項目を確認してください。
対象にならない費用
同じような支出でも、予防・美容・健康増進が目的なら対象外です。
健康診断・人間ドックの費用(重大な疾病が発見され、そのまま治療に入った場合を除く)
予防接種
美容整形・美容目的の歯科矯正
ビタミン剤・サプリメント・健康食品
疲労回復・リラクゼーション目的のマッサージ
眼鏡・コンタクトレンズ(近視・遠視・老眼など日常生活用)
通院用の自家用車のガソリン代・駐車料金
差額ベッド代(自己都合の場合)
判断に迷いやすいグレーゾーン
フリーランスエンジニアが引っかかりやすい典型例をまとめます。
支出 | 判定 | 補足 |
|---|---|---|
座り仕事による腰痛のマッサージ | 原則対象外 | 医師の指示による治療目的なら対象。リラクゼーション目的は不可 |
ブルーライトカット眼鏡 | 原則対象外 | 治療用ではなく日常生活用のため |
PCR検査 | 医師の指示・診断結果次第 | 陽性で治療に入れば対象。任意検査は原則対象外 |
オンライン診療の初診料 | 対象 | 通常の診察と同様に扱う |
デリバリー薬局の配送料 | 対象外 | 医薬品本体は対象、配送料など付随費用は不可 |
インフルエンザ予防接種 | 対象外 | 予防目的のため |
ミニFAQ:スマートウォッチや姿勢矯正グッズなど「健康に関わる支出」は控除対象になりますか?
いずれも治療ではなく健康維持・予防が主目的なので、原則として医療費控除の対象外です。医師が治療用として指定した器具に限り対象になり得ます。
計算方法と控除額の目安
医療費控除の計算は、集計そのものよりも「保険金の差し引き」「10万円 or 5%ルール」「上限200万円」の3点でつまずきがちです。順番に整理します。
計算式
計算式はシンプルです。
医療費控除額 =(実際に支払った医療費の合計 − 保険金等で補填される金額)−(10万円 または 総所得金額等の5%のいずれか低い方)
「保険金等で補填される金額」には、生命保険の入院給付金や高額療養費の支給額、出産育児一時金などが含まれます。支給の対象となった医療費からのみ差し引く点に注意してください。他の医療費まで減額する必要はありません。
総所得金額等の5%ルール
一般に「10万円を超えないと使えない」と言われますが、正確には総所得金額等の合計額が200万円未満のフリーランスは5%基準を使えます。開業初年度で所得が伸び切っていない年や、育休・療養で稼働が減った年に効いてくるルールです。
例えば総所得金額等が150万円のケースでは、5%=7万5,000円が足切り額になります。医療費8万円でも医療費控除を使える計算です。
上限200万円と保険金の扱い
医療費控除には年間200万円の上限があります。大きな手術や長期入院があった年でも、支払った医療費のうち200万円までしか控除対象にできません。
保険金等で補填された分は必ず差し引く必要があります。ただし、以下の点は覚えておくと便利です。
未受領でも支給額が見込める場合は、その見込み額を踏まえて申告することがある
実際の受取額が見込みと違った場合は、確定申告後に修正申告や更正の請求で調整する
医療費控除の対象になった支出以上に保険金が出ても、他の医療費まで減額しない
判断に迷う場合は税務署や税理士に確認する
減税額のシミュレーション(フリーランスエンジニアの想定ケース)
課税所得別の還付・減税イメージを整理します。医療費20万円、保険金補填なしを前提とした概算です。あくまで独身・扶養なし・保険金補填なしの概算であり、実際は他の控除や住民税の均等割・所得割の詳細で変動します。詳細は税理士等にご相談ください。
課税所得(独身・扶養なし・保険金補填なしの概算) | 所得税率 | 控除額 | 減税額の目安(所得税+住民税10%、復興特別所得税は含まない) |
|---|---|---|---|
195万円以下 | 5% | 10万円 | 15,000円前後 |
195万円超〜330万円以下 | 10% | 10万円 | 20,000円前後 |
330万円超〜695万円以下 | 20% | 10万円 | 30,000円前後 |
695万円超〜900万円以下 | 23% | 10万円 | 33,000円前後 |
900万円超〜1,800万円以下 | 33% | 10万円 | 43,000円前後 |
高所得のフリーランスエンジニアほど、家族分を含めた医療費集計の効果が大きくなります。
フリーランスエンジニアが押さえるべき7つの実務ポイント
同じ医療費控除でも、フリーランスならではの落とし穴があります。会社員時代の感覚のままだと損をしがちなポイントを整理します。
ポイント1:経費と医療費控除は別物
通常、本人や家族の医療費は事業の必要経費にはできず、医療費控除で扱います。フリーランスの家事関連費として、あくまで所得控除の枠で処理する形が基本です。よく「打ち合わせ中に体調を崩して受診したから経費になるのでは」と迷う人がいますが、業務起因の受診であっても原則として医療費控除の枠で処理します。
例外的に、事業主が加入する労災保険(特別加入)や、業務中のけがで健康保険が使えない場合の自費診療などは、状況により整理が異なります。判断に迷う場合は税理士に確認してください。
ポイント2:生計を一にする家族の医療費は合算できる
生計を一にする配偶者・親族の医療費は、実際に支払った人の所得から控除できます。仕送りしている親や、別居していても常に生活費を送金している家族分もまとめて集計できるケースがあります。
節税効果を大きくするには、原則として世帯内で所得税率が最も高い人が家族分をまとめて申告するのが有利です。夫婦ともにフリーランスというケースでは、事業所得が大きい方に医療費を寄せると還付が増えます。
ポイント3:高額療養費・保険金は差し引く
入院や手術で高額療養費制度を使った場合、支給された金額は医療費から差し引きます。生命保険の入院給付金や、健康保険組合からの付加給付なども同様です。
差し引きを忘れると過大控除となり、税務署から修正申告を求められる可能性があります。保険会社からの支払通知書や、健康保険組合の支給決定通知書は必ず保管しておきましょう。
ポイント4:交通費の扱い
通院のための公共交通機関の運賃は対象です。バス・電車は領収書がなくても「通院日付・区間・金額」を記録しておけば認められます。
一方、以下は原則として対象外です。
自家用車のガソリン代・高速道路料金・駐車料金
自宅から病院までのタクシー代(緊急時・公共交通機関が使えない状況を除く)
付き添い家族の交通費(患者が一人で通院できない場合を除く)
在宅勤務中心のフリーランスエンジニアは、通院のついでに買い物や打ち合わせを済ませることも多いかもしれません。通院と関係のない移動の交通費は含めないのが原則です。
ポイント5:住民税・国民健康保険料への波及
確定申告で医療費控除を申告すると、通常はその内容が翌年度の住民税計算にも反映されます。所得割の計算基礎に使う課税所得から控除されるため、翌年度の住民税が下がる可能性があります。
住民税の税率は概ね10%(都道府県4%+市区町村6%)です。国民健康保険料は自治体ごとに所得割・均等割などの算定方法が異なるため、医療費控除で所得が下がっても保険料が必ず下がるとは限りません。詳細はお住まいの自治体でご確認ください。国民健康保険料そのものの見直しは国民健康保険が高いと感じたフリーランスエンジニアの対策も参考にしてください。
ポイント6:副業エンジニアで年末調整済みの場合
会社員として給与を受け取りながら副業でエンジニア案件をこなしている場合、給与所得は年末調整済みでも医療費控除を含む確定申告が必要です。
給与所得と事業所得(または雑所得)を合算した確定申告のなかに、医療費控除の明細書を組み込みます。副業の詳細は副業エンジニアの確定申告|20万円ルール・経費・住民税の落とし穴を徹底解説も参考になります。
ポイント7:iDeCo・ふるさと納税との併用
医療費控除は他の所得控除と併用可能です。iDeCoの掛金全額を所得控除できる小規模企業共済等掛金控除、ふるさと納税による寄附金控除、生命保険料控除など、他の枠を使い切ったうえで医療費控除も乗せられます。
ただし、ふるさと納税のワンストップ特例は使えなくなる点に注意してください。確定申告する年はふるさと納税の寄附金控除も申告書に記載する必要があります。iDeCoの詳細はiDeCoとは?フリーランスエンジニアの拠出上限・節税効果・始め方をわかりやすく解説を参照してください。
確定申告での申請手順(e-Tax対応)
ここからは実際の申請手順です。令和8年分(2027年2〜3月申告)を前提に、e-Taxでの提出を想定して整理します。
手順1:必要書類の準備
年明けから申告開始までに、以下を集めておきます。
医療費の領収書(月・支払先ごとに分類)
医療費通知(協会けんぽ・国保連合会などから送付される「医療費のお知らせ」)
生命保険の入院給付金・高額療養費など補填金額がわかる書類
交通費のメモ(通院日・区間・金額)
マイナンバーカード(e-Tax用)
事業所得の決算書・青色申告決算書(同時に確定申告するため)
医療費通知を使えば、そこに記載された項目については明細書への個別入力を省略できます。ただし、通知に記載されていない年度末の医療費や、通院交通費、市販薬などは個別に集計する必要があります。
手順2:医療費控除の明細書の作り方
平成29年分の確定申告からは、領収書の提出は不要になり、代わりに医療費控除の明細書の提出が必須になりました。
明細書には次の情報を記載します。
医療を受けた人の氏名
病院・薬局などの支払先の名称
医療費の区分(診療・治療、医薬品購入、介護保険サービス、その他)
支払った医療費の額
保険金などで補填される金額
家族分を含めて件数が多い場合は、支払先ごとにまとめて記載して構いません。医療費通知を利用する場合は、通知の合計額を明細書の該当欄に記入するだけで済みます。詳細は国税庁 医療費控除を受ける方へを確認してください。
手順3:確定申告書への記入と提出
確定申告書の第一表「所得から差し引かれる金額」欄に、計算した医療費控除額を記入します。e-Taxを使う場合は、確定申告書等作成コーナーで医療費控除の明細書を作成すると、金額が自動で本表に転記されます。
e-Taxでの提出手順の全体像はe-Taxで確定申告するやり方|フリーランスエンジニア向け操作手順・必要書類・つまずきポイント【令和8年分】にまとめています。医療費控除だけを追加で申告する還付申告なら、通常の確定申告期間(原則2月16日〜3月15日)以外でも受け付けてもらえます。
手順4:領収書の5年保存
領収書は提出しませんが、確定申告期限から5年間の保存義務があります。税務署から問い合わせが来た際に提示できるよう、支払先・支払日ごとに整理しておきましょう。
スキャンして電子データで管理することも可能ですが、紙原本を廃棄して電子保存のみに切り替える場合は保存要件の確認が必要です。原本は少なくとも保存期間中は残しておくのが無難です。
ミニFAQ:紙の領収書を全部処分してPDFだけで保存しても大丈夫ですか?
保存方法は提出方法や保存状況によって判断が分かれるため、原本は少なくとも保存期間中は残しておくのが無難です。電子保存のみで運用したい場合は、最新の国税庁案内や税理士に確認したうえで運用ルールを決めてください。
ケース別解説:フリーランスエンジニアの状況別ポイント
同じ医療費控除でも、事業形態や独立時期によって注意点が変わります。
専業フリーランス(事業所得のみ)
事業所得だけのフリーランスエンジニアは、医療費控除も事業所得の申告と同じ確定申告書のなかで処理します。青色申告・白色申告に関わらず同じ手続きです。
青色申告の65万円控除を使う場合、その控除は事業所得を圧縮する目的で使い、医療費控除は所得全体からさらに引く形になります。両者は独立して機能するため、青色申告特別控除を使いながら医療費控除も併用できます。青色申告と白色申告の違いは青色申告と白色申告の違い|フリーランスエンジニアが知るべき判断基準と手続きを解説も参考にしてください。
副業エンジニア(給与+事業所得)
給与所得と事業所得の両方がある場合、給与所得の源泉徴収票と事業所得の決算書を合算した確定申告書を作成し、そのなかで医療費控除を差し引きます。
年末調整で還付を受けていても、医療費控除の分だけ追加で還付が発生します。年末調整済みの給与所得者が医療費控除だけ追加で申告する場合は、還付申告として5年遡って申告できます。過去の年分でも間に合う可能性があるので、還付申告とは|5年遡及・必要書類・確定申告との違いをフリーランス視点で解説を参照してください。
開業初年度・年途中で独立した場合
年の途中で会社員からフリーランスになった年は、給与所得と事業所得の両方が発生します。前半の会社員時代の給与所得も含めて、1年分をまとめて確定申告し、そのなかで医療費控除も1年分まとめて処理します。
初年度は所得が伸び切らないケースが多く、総所得金額等が200万円未満なら5%基準が使えます。10万円まで届かない年でも控除できる可能性があるため、少額でも領収書は捨てずに集計しましょう。初年度の申告全体像は開業1年目の確定申告|売上規模別の判断と提出書類【令和8年分】にまとめています。
医療費が10万円に届かない年
医療費が10万円に届かず、総所得金額等も200万円以上のフリーランスエンジニアは、通常の医療費控除は使えません。ただし次の選択肢があります。
セルフメディケーション税制への切り替え(対象OTC医薬品が年12,000円超)
生計を一にする家族分の合算で10万円を超えないか再検討
翌年に治療がまとまるなら、可能な範囲で支払時期を集約(ただし治療を我慢しない範囲で)
よくある失敗と対策
医療費控除で税務署から問い合わせが来る、あるいは還付額が想定より少ないというトラブルには、いくつか典型パターンがあります。
失敗1:集計漏れ
家族分の医療費や、コンビニで買った風邪薬(市販の第2類医薬品など)を集計から漏らすケースです。年始めに集計用の封筒やフォルダを作り、その年の領収書を1か所に集める運用にすると漏れを防げます。
失敗2:保険金の差し引き忘れ
高額療養費の還付や、生命保険の入院給付金を差し引かずに全額を医療費として集計してしまう失敗です。過大控除になり、税務署から修正申告を求められる可能性があります。保険金の支給決定通知書と医療費領収書は必ずセットで保管してください。
失敗3:セルフメディケーション税制との併用不可を見落とす
「医療費控除もセルフメディケーション税制も両方使えれば得なのに」と思われがちですが、両者は選択適用です。同じ年に両方は使えません。医療費控除の下書きとセルフメディケーション税制の下書きを両方作り、有利な方を選ぶのが基本です。
失敗4:対象外費用を含めてしまう
予防接種、健康診断、美容整形、サプリメントなどを対象費用に含めてしまう失敗です。特に人間ドックは「重大な疾病が発見されず終わった場合は対象外」なので、健康な結果だった年は含められません。
失敗5:明細書の様式間違い
平成28年分以前の様式で提出しようとしてエラーになるケースです。現在使うのは「医療費控除の明細書」(医療費通知を活用する場合は該当欄に記入)。e-Taxの確定申告書等作成コーナーを使えば最新の様式で作成できます。
実践チェックリスト・整理表
申告直前のセルフチェックとして使ってください。
対象/対象外の判定早見表
支出カテゴリ | 対象 | 補足 |
|---|---|---|
病院の診察・治療・入院費 | ○ | 治療目的が原則 |
医師が処方した治療用医薬品 | ○ | 保険調剤・自由診療とも対象 |
市販の風邪薬・胃腸薬 | ○ | 治療目的なら対象。第2類・第3類の一般薬も含む |
治療目的の歯科治療(金・銀・ポーセレン) | ○ | 通常の材料は問題なし |
妊娠・出産費用 | ○ | 定期健診・入院・分娩費用が対象 |
インフルエンザ予防接種 | × | 予防目的 |
人間ドック | 原則× | 重大疾病発見→治療なら対象 |
美容整形 | × | 美容目的 |
サプリメント・健康食品 | × | 予防・健康増進 |
眼鏡・コンタクトレンズ | 原則× | 弱視・斜視治療用は例外 |
通院の公共交通費 | ○ | メモで可 |
通院のガソリン代・駐車料金 | × | 自家用車は原則対象外 |
リラクゼーション目的マッサージ | × | 治療目的なら○ |
必要書類チェックリスト
[ ] 医療費控除の明細書(記入済み)
[ ] 医療費通知(協会けんぽ・国保連合会等から届く「医療費のお知らせ」)
[ ] 保険金支給通知書(該当がある場合)
[ ] 高額療養費支給決定通知書(該当がある場合)
[ ] 通院交通費のメモ
[ ] 本人確認書類(e-Taxは原則マイナンバーカード等が必要。書面提出は本人確認書類の扱いが異なるため最新の申告案内で確認)
[ ] 事業所得の決算書・青色申告決算書
[ ] 源泉徴収票(副業エンジニアの場合)
[ ] 領収書(提出不要だが5年保存)
提出方法別のTODO
提出方法 | 必要な準備 | 特徴 |
|---|---|---|
e-Tax(マイナンバーカード方式) | マイナンバーカード・ICカードリーダー or 対応スマホ | 添付書類の一部省略可・還付が早い傾向 |
e-Tax(ID・パスワード方式) | 税務署で本人確認後に発行されたID・パスワード | カードなしでも可・暫定的な措置の位置づけ |
書面提出 | 印刷した申告書・明細書等 | 医療費通知を利用する場合の添付要否は最新の申告案内で確認 |
まとめ
医療費控除は、フリーランスエンジニアが確定申告のなかで忘れずに使いたい所得控除です。1年間に支払った医療費から保険金と足切り額を差し引いた金額を、所得から控除できます。
要点は次のとおりです。
医療費控除は所得控除。事業経費とは別枠で使う
足切り額は「10万円 または 総所得金額等の5%のいずれか低い方」。所得が低い年は5%基準を活用
生計を一にする家族分は合算可能。所得が高い人でまとめると節税効果が大きい
保険金・高額療養費は差し引く。差し引き忘れは修正申告のリスク
e-Taxなら領収書提出不要(明細書提出は必要、領収書は5年保存)
セルフメディケーション税制とは選択適用。両方の下書きを作って有利な方を選ぶ
会社員時代に使い忘れた年があっても、還付申告として5年遡って申告可能
税務判断はケースにより異なるため、迷った場合や高額な医療費が絡む年は税理士へのご相談をおすすめします。フリーランスエンジニアが確定申告全体を最適化する視点はフリーランスエンジニアの節税対策|青色申告・経費・iDeCo・小規模共済の実践テクニックを徹底解説、確定申告の全体像はフリーランスエンジニアの確定申告|やり方・必要書類・期限をわかりやすく解説を参考にしてください。
参照元・一次情報リンク一覧
税制や申告画面・様式は年分により変わるため、申告時は最新の国税庁案内をご確認ください。
よくある質問
医療費控除は医療費が10万円を超えないと使えませんか?
原則は「10万円 または 総所得金額等の5%のいずれか低い方」が足切り額です。総所得金額等が200万円未満のフリーランスなら5%基準が使えるため、10万円未満でも控除できる年があります。開業初年度や育休中など所得が低い年は特に確認してみてください。
家族分を合算するとき、誰の申告で使うのが得ですか?
原則として所得税率が最も高い人でまとめて申告するのが有利です。所得税は累進課税なので、税率が高い人ほど同じ控除額でも減税額が大きくなります。夫婦ともにフリーランスで所得に差がある場合は、所得が多い方に寄せるのが基本になります。
保険で戻ってきたお金は全部の医療費から引かないといけませんか?
保険金の対象となった医療費からのみ差し引きます。入院で50万円支払い、保険金30万円を受け取った場合、その入院分は差し引き20万円として集計します。同じ年に別途通院した10万円分にまで保険金を波及させる必要はありません。
通院に使ったタクシー代は含められますか?
原則対象外です。ただし、公共交通機関が使えない状況(陣痛が始まった、骨折で歩けない、深夜の急患など)でタクシーを使った場合は対象になります。日常的な通院や、電車があるのに便利だからタクシーを使った場合は含められません。
電子マネー・クレジットカードで払った医療費でも大丈夫ですか?
支払方法は問いません。その年中に支払った医療費であることが確認できれば、電子マネー・クレジットカード・QRコード決済のいずれでも対象です。クレジットカード払いも対象ですが、実際にその年中に支払った医療費として扱える時期の判定に迷う場合は、国税庁案内や税理士に確認してください。
医療費控除の明細書と医療費通知はどちらを使えばいいですか?
医療費通知が届いている項目はそれを使い、記載外の医療費は明細書に個別記入するのが最も手間が少ない方法です。医療費通知には診療月・医療機関・自己負担額が記載されているため、通知記載分は明細書で集計を省略できます。市販薬・通院交通費・年度末の直近医療費などは通知に載らないので、個別に集計します。
開業届を出す前の会社員時代の医療費も、独立後の確定申告で使えますか?
同じ年の医療費なら合算できます。1月から6月まで会社員で7月に独立した年なら、1月から12月までの医療費をまとめて、その年の確定申告で医療費控除として申告できます。ただし前年以前の医療費は使えません(還付申告として過去分を遡ることは可能)。
領収書をなくしてしまった場合はどうすればいいですか?
医療機関に再発行を依頼するか、明細を書面で確認してもらうことになります。再発行が難しい場合は、健康保険から送られる医療費通知を代替情報として使う方法もあります。医療費通知に記載されている項目はそれで集計を証明できます。
歯科矯正の費用は控除対象になりますか?
大人の美容目的の矯正は対象外ですが、発育段階にある子どもの咬合治療や、成人でも咀嚼機能・発音機能の改善を目的とした矯正は対象になります。矯正が始まる前に、歯科医師から「治療目的である旨の診断書」または「治療内容の説明書」を受け取っておくと申告時に安心です。
医療費控除とふるさと納税は両方使えますか?
両方使えます。ただし医療費控除を使う年はふるさと納税のワンストップ特例が使えなくなるため、寄附金控除も一緒に確定申告に含める必要があります。ふるさと納税の控除限度額の計算にも医療費控除が影響するので、両者を組み込んだシミュレーションを事前にしておくと安心です。
高額療養費と医療費控除は両方申請できますか?
両方申請できますが、高額療養費で戻ってきた金額は医療費控除の対象からは差し引く必要があります。二重に還付を受けることはできません。高額療養費の支給決定通知書が届いてから確定申告するのが確実です。
インボイス制度は医療費控除に影響しますか?
影響しません。インボイス制度は消費税に関する制度で、医療費控除は所得税・住民税の所得控除です。医療費控除で必要な書類も明細書と保管する領収書だけで、適格請求書は不要です。
