一人法人の決算の流れ|マイクロ法人の申告スケジュールと税理士の使い方
最終更新日:2026/10/04
一人法人の決算とは、1事業年度の取引を締めて決算書をつくり、法人税・消費税・法人住民税などを原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内に申告・納税する手続きです。法人成りしたエンジニア向けに、年間スケジュールと8ステップの実務、税理士に頼む判断基準を整理します。
先に結論
法人税の申告・納税期限は、原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内。個人事業主のような「毎年3月15日」という固定日ではなく、決算月によって動きます
提出先は税務署・都道府県・市区町村の3か所。個人の確定申告が実質税務署だけで完結するのとは大きく異なります
赤字でも法人住民税の均等割は発生します。東京都特別区のみに事務所があり資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら年7万円です
役員報酬の改定は会計期間開始の日から3か月を経過する日まで。決算スケジュールと直結するため、申告が終わったら次の期の報酬額を決めます
取引がシンプルな一人法人なら自分で申告まで完結できます。ただし消費税の課税事業者になった期・設立初年度・売却や廃業が絡む期は税理士に相談したほうが安全です
この記事でわかること
一人法人の決算が個人事業主の確定申告とどこが違うのか
決算日から申告までの2か月間で何を順番にやるのか(8ステップ)
提出先別に必要な書類は何か、決算とは別に毎年発生する暦年ベースの手続きは何か
自分でやるか税理士に頼むかの判断基準と、依頼するタイミング
対象は、個人事業から法人成りしたエンジニア、もしくは社会保険の最適化などを目的にマイクロ法人を設立したエンジニアです。役員が自分一人(または配偶者と2人)で、従業員を雇っていない規模を想定しています。会社形態は株式会社・合同会社のどちらも含みます。手続きが分かれる部分はその都度書き分けます。
なお本記事では、呼び方を次のように使い分けます。「一人法人」は役員が自分だけの小規模法人全般、「マイクロ法人」はそのうち社会保険や税負担の設計を主目的に設立したもの、「法人成り」は個人事業から法人へ移行することを指します。決算実務としてはいずれも同じ手続きです。
目次
一人法人の決算と個人事業主の確定申告は何が違うか
決算日から申告までの2か月でやること|年間スケジュール
決算・申告の8ステップ
提出先別|申告書と添付書類の一覧
決算とは別に毎年発生する暦年ベースの手続き
自分でやるか税理士に頼むかの判断基準
ケース別|エンジニアの一人法人でよくある決算パターン
よくある失敗と対策
決算前後の実践チェックリスト
まとめ
よくある質問
一人法人の決算と個人事業主の確定申告は何が違うか
結論から言うと、違いは「期限の決まり方」「提出先の数」「赤字のときの扱い」の3点に集約されます。手続きの総量は法人のほうが明確に多くなります。
個人事業主の確定申告は、1月1日から12月31日までの暦年で区切り、翌年2月16日から3月15日までに申告します。全員が同じ日程です。法人は事業年度を自分で決められるため、決算日が会社ごとに違い、期限もそれに連動します。
押さえておくべき5つの違い
比較項目 | 個人事業主(確定申告) | 一人法人(決算・申告) |
|---|---|---|
対象期間 | 1月1日〜12月31日の暦年で固定 | 定款で定めた事業年度(1年以内) |
申告期限 | 原則として翌年2月16日〜3月15日 | 原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内 |
主な提出先 | 税務署(消費税も同じ) | 税務署・都道府県・市区町村の3か所 |
赤字のとき | 所得税は0円。住民税も所得割は発生しない | 法人税は0円でも法人住民税の均等割は発生 |
社内手続き | 不要 | 株式会社は計算書類について株主総会の承認が必要(合同会社は社員の決定による) |
株式会社の場合、株主が自分一人であっても、計算書類は定時株主総会で承認する手続きが必要です。ただし会社法では、株主全員が書面や電磁的記録で提案に同意すれば決議があったものとみなされる仕組みがあるため、実務上は議事録を1枚残す形で足りるケースがほとんどです。
合同会社には株主総会という機関そのものがなく、計算書類の承認手続きは会社法上の明文がありません。定款の定めや社員の決定に従うことになります。形態による差はありますが、どちらの場合も「決算を確定させた記録を社内に残す」点は共通です。
税目が4つに増える
法人になると、ひとつの決算に対して次の税目を申告します。
法人税・地方法人税:税務署へ。別表という様式の集まりで申告します
消費税・地方消費税:税務署へ。課税事業者である期のみ
法人事業税・特別法人事業税:都道府県へ
法人住民税(道府県民税・市町村民税):都道府県と市区町村へ。東京23区内のみなら都税事務所に一本化されます
申告先が分かれるのが法人決算の面倒なところです。詳しい様式や手引きは、国税庁の法人税、地方法人税及び防衛特別法人税の申告(法人税申告書別表等)にまとまっています。
そもそも法人化すべきかという段階の方は、フリーランスエンジニアの法人化|タイミング・メリット・手続きを徹底解説を先に読むと判断材料が揃います。社会保険の最適化を主目的とする設計についてはマイクロ法人とは?フリーランスエンジニアの節税戦略・メリット・デメリット・設立手順を徹底解説で整理しています。
ミニFAQ:Q. 個人事業主時代の確定申告はもう不要になりますか?
A. 法人からの役員報酬だけであれば、年末調整で完結して確定申告が不要になるケースがあります。ただし個人事業を残して二刀流で運営する場合や、医療費控除・ふるさと納税の適用を受ける場合は、個人の確定申告も別途必要です。法人の決算と個人の確定申告は、別の手続きとして並走します。
決算日から申告までの2か月でやること|年間スケジュール
結論として、動かせない締切は「事業年度終了の日の翌日から2か月以内」ひとつです。そこから逆算して、1か月目で数字を固め、2か月目で申告書を作る配分が現実的です。
以下の説明と早見表は、月末を決算日とする一般的なケースを前提にしています。月の途中を決算日にしている場合は、末日ではなく2か月後の応当日が期限になるため、自社の定款を確認してください。
期限が土曜・日曜・祝日に当たる場合は、翌開庁日が期限になります。年末年始(12月29日から1月3日)は税務署が閉庁するため、10月決算のように期限が12月31日になる会社は、年明け最初の開庁日が実質的な期限です。
決算月別の申告・納付期限
決算月 | 申告・納付期限(原則) | 備考 |
|---|---|---|
1月 | 3月31日 | 個人の確定申告期と重なる |
2月 | 4月30日 | |
3月 | 5月31日 | 最も多い決算月。税理士も繁忙 |
4月 | 6月30日 | |
5月 | 7月31日 | 算定基礎届(7月10日)と重なる |
6月 | 8月31日 | |
7月 | 9月30日 | |
8月 | 10月31日 | |
9月 | 11月30日 | 3月決算に次いで多い |
10月 | 12月31日 | 閉庁期間のため実質は年明け最初の開庁日 |
11月 | 1月31日 | 法定調書・償却資産申告と重なる |
12月 | 2月末日 | 個人の確定申告準備と重なる |
2か月間の作業配分
決算日から逆算した進め方の目安です。一人法人で月次の記帳が追いついている前提です。
決算日まで:売上・経費の計上漏れを確認し、必要なら決算賞与や設備投資を検討する
決算日の翌日〜1か月目前半:請求書・領収書・通帳を締め、未入金と未払いを洗い出す
1か月目後半:決算整理仕訳を入れ、試算表を確定させる
2か月目前半:決算書を作成し、株主総会などの承認手続きを経て記録を残す
2か月目後半:申告書を作成し、e-Tax・eLTAXで送信。納付まで済ませる
初年度は様式の確認や調べ物に時間を取られます。週末2〜3回分をまとめて確保しておくと、期限直前に慌てずに済みます。
決算月はどう決めるか
設立時に決算月を選べるのは法人の利点です。判断軸は3つあります。
設立月の前月を決算月にすると、第1期を最長の12か月近くまで伸ばせます
繁忙期を避ける。常駐案件の切り替え時期や、自社サービスのリリース期と決算作業を重ねない
3月決算を避けると、税理士に依頼する際に繁忙期を外せます。相談の時間も取りやすくなります
すでに設立済みでも、定款変更と異動届出書の提出により決算月は変更できます。
申告期限は延長できるか
定款で定時株主総会の招集時期を事業年度終了後3か月以内などと定めている場合、申請により法人税の申告期限を1か月延長できます。詳細は国税庁の定款の定め等による申告期限の延長の特例の申請に記載されています。
ただし延長されるのは申告期限であって、納付期限ではありません。原則の2か月を過ぎた分には利子税がかかるため、実務では見込額を先に納付します。一人法人で監査や連結の都合がない場合、わざわざ延長の手続きを取るメリットは大きくありません。
決算・申告の8ステップ
結論として、決算作業は「数字を締める前半4つ」と「書類を作って出す後半4つ」に分かれます。会計ソフトを使っていれば、前半の大半は日々の記帳で済んでいる状態になります。
STEP1〜3:記帳の締めと試算表の作成
まず、事業年度中の取引がすべて記帳されているかを確認します。法人口座とクレジットカードを会計ソフトに連携しておけば、明細は自動で取り込まれます。法人クレジットカード|個人事業主・マイクロ法人のフリーランスエンジニア向け選び方・年会費・会計ソフト連携を解説で触れているように、支払い経路を法人カードに寄せておくと、この工程の手間が大きく減ります。
次に、請求書・領収書・契約書を整理します。エンジニアの一人法人で漏れやすいのは、年額払いのSaaS、ドメイン・サーバー代、技術書やオンライン講座の費用、勉強会の参加費あたりです。
最後に試算表を出し、残高が実態と合っているかを確認します。法人口座の残高と帳簿の現預金が一致しない場合は、ここで原因を潰します。
STEP4:決算整理仕訳
試算表の数字を、その期の実態に合わせて調整する工程です。一人法人で発生しやすいものは次のとおりです。
売掛金・未払金の計上:3月稼働分が4月入金なら、売上は3月に立てます。発生主義で処理します
減価償却費の計上:PC・モニター・サーバー機器など
前払費用の振替:翌期分まで一括払いしたSaaSやドメイン費用
棚卸:在庫を持たない受託開発中心なら不要なケースが多い
未払の社会保険料・法定福利費の整理
取得価額10万円未満のものは、取得した期に全額を損金算入できます。10万円以上20万円未満なら一括償却資産として3年で均等償却する方法があり、中小企業者等であれば30万円未満の資産を年間300万円まで一括で損金算入できる少額減価償却資産の特例も使えます。どれを選ぶかで後述の償却資産申告の対象かどうかが変わるため、取得時に判断しておくと決算が楽になります。
STEP5:決算書の作成
貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表を作成します。会計ソフトで試算表が確定していれば、ほぼ自動で出力されます。
STEP6:決算書の確定(株主総会などの承認)
株式会社では、作成した計算書類を定時株主総会で承認して確定させます。一人株主でも手続きとしては必要で、書面による同意で決議とみなす方法を使い、議事録を作成して会社に保存するのが一般的です。合同会社の場合は株主総会がないため、定款の定めや社員の決定に従って確定させます。
STEP7:申告と納税
税務署にはe-Tax、都道府県・市区町村にはeLTAXから送信します。法人税の申告は別表という様式の集まりで構成され、一人法人でも別表一、別表二、別表四、別表五(一)、別表五(二)などを作成します。
納付方法は、ダイレクト納付、インターネットバンキング、クレジットカード納付、金融機関窓口などから選べます。納期限の一覧は国税庁の主な国税の納期限(法定納期限)及び振替日で確認できます。
ミニFAQ:Q. 赤字なら申告しなくてもいいですか?
A. 申告は必要です。法人税は0円でも、期限内申告をしない状態が続くと青色申告の承認が取り消される可能性があり、欠損金の繰越控除も使えなくなります。法人住民税の均等割も発生するため、納付も生じます。
STEP8:帳簿書類の保存
帳簿書類は原則7年間の保存が必要です。青色申告で欠損金が生じた事業年度は10年間になります。電子取引で受け取った請求書・領収書は、電子データのまま保存する必要がある点にも注意してください。
提出先別|申告書と添付書類の一覧
結論として、一人法人が1回の決算で出す書類は、提出先3か所あわせておおむね以下のとおりです。東京23区内のみに事務所がある場合は、都税事務所への提出で市町村民税分も完結します。
提出先 | 主な申告書 | 添付・同時提出するもの | 期限(原則) |
|---|---|---|---|
税務署 | 法人税・地方法人税確定申告書(別表一ほか) | 決算書、勘定科目内訳明細書、法人事業概況説明書 | 事業年度終了の翌日から2か月以内 |
税務署 | 消費税及び地方消費税の確定申告書 | 付表(課税方式により異なる) | 課税期間の末日の翌日から2か月以内 |
都道府県(都税事務所) | 法人事業税・特別法人事業税・道府県民税の申告書(第六号様式) | 決算書 | 事業年度終了の翌日から2か月以内 |
市区町村 | 法人市町村民税の申告書(第二十号様式) | 決算書 | 事業年度終了の翌日から2か月以内 |
消費税の申告が必要かどうかは、その課税期間に課税事業者だったかで決まります。インボイス発行事業者として登録していれば、売上規模にかかわらず課税事業者です。判定の考え方はフリーランスエンジニアの消費税|インボイス・課税事業者判定・簡易課税まで解説で整理しています。申告と納税の基本は国税庁のNo.6601 申告と納税を参照してください。
赤字でも発生する均等割
法人住民税の均等割は、所得が赤字でも課税されます。東京都の場合、特別区のみに事務所等があり資本金等の額が1,000万円以下・従業者数50人以下であれば、年7万円(道府県民税相当分と市町村民税相当分の合計)です。基準や税率区分は東京都主税局の法人事業税・法人都民税のページで確認できます。
金額は自治体によって異なるため、本店所在地のルールを必ず確認してください。この固定費があるため、売上が小さい年でも法人を維持するコストはゼロになりません。
決算とは別に毎年発生する暦年ベースの手続き
結論として、一人法人には「決算日を起点とする手続き」と「暦年(1月〜12月)を起点とする手続き」の2系統があります。後者を見落とすと、決算は無事に終わったのに1月や7月に慌てることになります。
役員報酬を自分に払っている時点で、法人は給与の支払者です。源泉徴収も年末調整も、従業員がいなくても発生します。
1月31日が期限になるもの
給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表:税務署へ。作成方法は国税庁の給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引にまとまっています
給与支払報告書:役員・従業員が1月1日時点で住んでいる市区町村へ。これを出さないと住民税が正しく計算されません
償却資産申告書:市区町村(東京23区は都税事務所)へ。1月1日時点で所有する事業用資産を申告します
償却資産については誤解が多いところです。取得価額10万円未満で損金算入したものや、一括償却資産として3年償却を選んだものは申告対象外になります。一方、30万円未満の少額減価償却資産の特例を使って一括損金算入した資産は、償却資産税の課税対象として申告が必要です。課税標準額が150万円未満なら税金はかかりませんが、申告自体は必要になります。
7月10日と1月20日が期限になるもの
給与の支給人員が常時10人未満であれば、源泉所得税の納期の特例を申請できます。承認を受けると、1月から6月までに源泉徴収した分は7月10日、7月から12月までの分は翌年1月20日が納期限になり、毎月の納付が年2回で済みます。制度の詳細は国税庁のNo.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例に記載されています。一人法人なら申請しておくのが実務的です。
社会保険に加入している場合、7月10日までに算定基礎届を提出します。7月1日時点の被保険者について、4月・5月・6月の報酬をもとに標準報酬月額を決め直す手続きで、決まった額は9月から翌年8月まで適用されます。詳細は日本年金機構の定時決定(算定基礎届)を参照してください。
なお、役員のみで従業員を雇っていない法人には、原則として労働保険(労災保険・雇用保険)の加入義務が生じないため、6月から7月の年度更新も発生しないのが通常です。ただし中小事業主等として労災保険に特別加入している場合は別途手続きが必要です。アルバイトを含めて人を雇った時点で適用対象になる点にも注意してください。
12月:年末調整
役員報酬を支払っていれば、一人法人でも年末調整を行います。扶養控除等申告書や保険料控除申告書は、自分で書いて会社として保管します。形式的に感じるかもしれませんが、ここで生命保険料控除などを反映しておけば、個人側の確定申告が不要になるケースがあります。
個人事業主側の支払いスケジュールと並走している方は、フリーランスエンジニアの税金・保険料カレンダー|月別支払い【令和8年分】で個人側の月別の動きを確認しておくと、二刀流の資金繰りが読みやすくなります。
ミニFAQ:Q. 役員報酬をゼロにしている場合も年末調整は必要ですか?
A. 給与の支払いが一切なければ、年末調整も源泉徴収票の作成も発生しません。ただし社会保険には加入できなくなるため、健康保険・年金は国民健康保険と国民年金に戻ります。社会保険料の最適化を目的に設立した法人では、報酬ゼロは目的と矛盾する設計になります。
役員報酬の改定は事業年度開始から3か月以内
決算が終わったら、次の期の役員報酬を決めます。損金に算入できる定期同額給与として扱われるためには、会計期間開始の日から3か月を経過する日までに改定を済ませる必要があります。期中に自由に増減させると、損金算入が否認される部分が出ます。制度の詳細は国税庁のNo.5211 役員に対する給与で確認できます。
3月決算なら6月末が目安です。申告作業が終わった流れで、株主総会の議事録に次期の報酬額まで残しておくと取りこぼしません。
報酬額の設計は、法人税と所得税・社会保険料のバランスで決まります。そもそもの売上見通しが立たないと決めようがないため、次の期にどのくらいの単価で稼働できるかを先に見積もってください。市場水準の目安は、無料のフリーランスエンジニア単価診断で確認できます。
自分でやるか税理士に頼むかの判断基準
結論として、取引がシンプルで消費税が免税の期であれば、会計ソフトと申告ソフトの組み合わせで自力完結は十分に現実的です。一方、消費税の申告が絡む期や初年度は、少なくともスポットで見てもらう価値があります。
自力でやりやすいケース・頼んだほうがいいケース
状況 | 自力の難易度 | コメント |
|---|---|---|
売上先が1〜3社、経費が固定的、消費税は免税 | 低 | 会計ソフトの自動連携でほぼ完結する |
役員報酬が定額、従業員なし | 低 | 給与計算もパターン化できる |
インボイス登録済みで消費税の申告がある | 中 | 課税方式の選択を間違えると納税額が変わる |
設立初年度 | 中 | 開業費の処理、初回の届出関係でつまずきやすい |
設備投資が大きい、助成金・補助金を受けた | 高 | 圧縮記帳など判断が要る論点が出る |
個人事業と法人の二刀流で取引がまたがる | 高 | 法人と個人の線引きが税務上の論点になる |
廃業・清算・事業譲渡が絡む期 | 高 | 自力で進めるべきではない |
使われているツール
一人法人の決算を自力で行う場合、会計ソフトと申告書作成ソフトを分けて使う構成が一般的です。会計はfreee会計、マネーフォワード クラウド会計、弥生会計あたりが候補になります。簿記の知識が浅いならfreee、個人事業と法人を並行して管理するならマネーフォワード、という選び方をするケースが多いようです。
申告書の作成は、会計ソフトの法人税申告機能を使うか、全力法人税のような申告特化のサービスを併用する方法があります。国税庁のe-Taxソフトでも作成できますが、別表の理解が前提になるため、初回から使いこなすのは負担が大きくなりがちです。
税理士の使い方は3パターン
顧問契約(丸投げ):月次で記帳も含めて任せる。手間は最小になるが費用は最も高い
決算申告のみスポット依頼:日々の記帳は自分で行い、決算と申告だけ依頼する。一人法人で選ばれやすい形
単発相談のみ:自分で申告まで行い、判断に迷う論点だけ相談する
費用は地域・売上規模・依頼範囲で大きく異なるため、相場を一律に示すことはできません。複数の事務所から見積もりを取り、含まれる業務範囲(記帳代行の有無、年末調整の有無、税務調査対応の扱い)を揃えて比較してください。依頼判断の考え方はフリーランスエンジニアの確定申告|税理士費用の相場と依頼するかの判断基準で詳しく整理しています。
依頼するなら決算月の2〜3か月前
税理士に声をかけるタイミングは早いほど選択肢が残ります。決算日を過ぎてから相談しても、できるのは「出す」作業だけです。決算月の2〜3か月前であれば、役員賞与の事前確定届出、設備投資の前倒し、保険の活用といった打ち手を検討する余地があります。
3月決算は税理士の繁忙期と重なります。新規で探すなら、決算月の設定自体をずらすことも含めて考えてみてください。
ケース別|エンジニアの一人法人でよくある決算パターン
設立初年度
第1期は変則的な月数になることが多く、減価償却費や均等割を月割りで計算します。設立時に支出した費用は、創立費・開業費として繰延資産に計上し、任意のタイミングで償却できます。初年度が赤字になりやすいため、黒字化した期に合わせて償却する選択もあります。
青色申告の承認申請は、設立の日以後3か月を経過した日と設立第1期の事業年度終了の日のうち、いずれか早い日の前日までに提出します。この提出を忘れると、欠損金の繰越控除などが使えません。設立直後の届出でもっとも取り返しがつかない部分です。
資本金1,000万円未満で設立した場合、第1期は原則として消費税の免税事業者になります。第2期は第1期の上半期(特定期間)の課税売上高と給与等支払額で判定します。ただしインボイス発行事業者として登録すれば、登録日以後は課税事業者です。
個人事業と法人の二刀流
受託開発は個人事業、特定の契約は法人、といった形で分ける運用です。決算と確定申告が両方発生するため、作業量は単純に増えます。
税務上の論点になりやすいのは、売上と経費の帰属です。同じクライアントの仕事を法人と個人で分ける場合、契約書・請求書・入金口座を明確に分離しておかないと、実態として説明できなくなります。按分が必要な経費(自宅の家賃、通信費など)も、業務実態に応じた合理的な根拠を残しておいてください。
社会保険の最適化を主目的とした二刀流の設計は、国民健康保険が高いと感じたフリーランスエンジニアの対策|組合健保・任意継続・マイクロ法人まで解説で扱っています。
稼働が落ちた年・赤字になった年
青色申告の承認を受けていれば、欠損金を最大10年間繰り越して、将来の黒字と相殺できます。赤字でも申告を続けることが条件です。
均等割は赤字でも発生します。稼働が止まる期間が長引きそうなら、法人を維持するか個人に戻すかの判断が必要になります。出口の選択肢はフリーランスエンジニアの出口戦略|法人化・再就職・セミリタイアの選び方で整理しています。
人を入れて事業を拡大する段階
役員1人の体制から人を雇う段階に入ると、労働保険の加入、就業規則、給与計算の実務が加わり、決算の難易度も上がります。この段階に進む準備についてはエンジニアの受託法人を設立して事業拡大する道|準備・受注・雇用までが参考になります。
よくある失敗と対策
期限を決算日の「2か月後」ではなく翌月末と勘違いする
法人税の期限は事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。3月31日決算なら5月31日であって、4月30日ではありません。逆に、余裕があると思って着手が遅れるパターンもあります。カレンダーに「決算日」「決算日+1か月」「申告期限」の3点を登録しておくと管理しやすくなります。
地方税の申告を忘れる
e-Taxで法人税を出して終わった気になり、eLTAXでの都道府県・市区町村分が残っているケースです。税務署への申告と地方税の申告は別の手続きです。均等割の納付も含めて、3か所すべてを済ませたか確認してください。
役員報酬を期中に変えてしまう
売上が伸びたからと期の途中で役員報酬を増額すると、定期同額給与の要件を外れ、増額分が損金として認められない可能性があります。報酬の見直しは会計期間開始から3か月以内に行います。
法人の口座と個人の財布が混ざる
法人カードを作らず個人カードで経費を払い続けると、精算が煩雑になるだけでなく、役員貸付金・役員借入金として処理せざるを得ない取引が増えます。役員貸付金が膨らんでいる決算書は、金融機関からの評価も下がります。設立したら支払い経路を法人に寄せてください。
消費税の課税方式を検討せずに申告期を迎える
簡易課税を選択する場合、適用を受けようとする課税期間の開始の日の前日までに届出が必要です。決算直前に気づいても、その期には間に合いません。インボイス登録をしたら、次の期の課税方式をいつまでに決めるかをセットで把握しておきます。
申告後の保存を軽視する
帳簿書類は原則7年間の保存が必要です。電子取引で受け取った請求書は電子のまま保存します。税務調査で求められるのはこの保存資料です。調査の実際についてはフリーランスの税務調査|来やすい条件・準備書類・当日の流れで解説しています。
決算前後の実践チェックリスト
決算日の前後で確認すべき項目を一覧にしました。初回の決算で印刷して使えるように整理しています。
決算日の1〜2か月前
当期の売上見込みと利益を試算した
設備投資・決算賞与など、当期中に実行すべき支出を検討した
税理士に依頼するか決めた(依頼するなら打診を済ませた)
未回収の売掛金を確認した
決算日の直後
期末時点の法人口座残高・カード未決済分を確定させた
請求書・領収書・契約書を期ごとにまとめた
売掛金・未払金・前払費用の洗い出しを終えた
固定資産台帳を更新した
申告書の作成前
決算整理仕訳を入力し、試算表を確定させた
決算書4点(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表)を出力した
計算書類の承認手続き(株式会社なら株主総会)を済ませ、議事録・記録を残した
申告・納付
税務署へ法人税・地方法人税を申告した
消費税の申告要否を確認し、該当するなら申告した
都道府県・市区町村へ地方税を申告した
均等割を含む納付をすべて完了した
申告後
次期の役員報酬を決めた(開始から3か月以内)
帳簿書類・電子取引データを保存した
翌期の決算スケジュールをカレンダーに登録した
まとめ
一人法人の決算は、事業年度終了の日の翌日から2か月以内に、税務署・都道府県・市区町村の3か所へ申告と納税を済ませる手続きです。期限は固定日ではなく決算月に連動します。
動かせない締切は決算日の2か月後の末日。1か月目で数字を締め、2か月目で申告書を作る配分が現実的です
法人税が0円でも申告は必要で、法人住民税の均等割は発生します。東京都特別区の小規模法人なら年7万円です
決算とは別に、1月31日(法定調書・給与支払報告書・償却資産申告)、7月10日(納期の特例・算定基礎届)、12月(年末調整)という暦年ベースの手続きがあります
役員報酬の改定は会計期間開始から3か月以内。申告が終わった流れで次期の報酬を決めると取りこぼしません
取引がシンプルで消費税が免税の期なら自力完結は現実的。消費税の申告がある期、設立初年度、廃業や清算が絡む期は専門家に相談してください
税理士に依頼するなら決算月の2〜3か月前。決算日を過ぎると打てる手はほぼなくなります
まずは自社の決算月から申告期限を割り出し、カレンダーに3つの日付(決算日・決算日の1か月後・申告期限)を登録するところから始めてください。次の期の役員報酬をいくらに置くかは、稼働予定と単価の見通しがあってはじめて決まります。案件の選択肢を広げたい方は、フリコンで市場の動向と自分の条件を確認しておくと、報酬設計の精度が上がります。
税務の個別判断は、事業の実態や所在地の自治体によって結論が変わります。判断に迷う論点は、税理士など専門家への確認をおすすめします。
参照した一次情報
よくある質問
決算を自分でやると、どのくらい費用を抑えられますか?
税理士費用がまるごと不要になりますが、会計ソフトと申告ソフトの利用料は発生します。ただし自力でやる場合、調べ物と作業にかかる時間を自分の時間単価で換算して比較してください。常駐案件で稼働している時間を削って決算作業にあてるなら、依頼したほうが総額で安くなるケースもあります。
決算日を過ぎてから「決算対策」はできますか?
打てる手は大きく限られます。利益を圧縮する打ち手(設備投資、決算賞与、保険加入など)は、実行や決議のタイミングが要件になっているものが多く、決算日を過ぎてから遡って成立させることはできません。決算日後にできるのは、計上漏れの経費や未払費用を正しく拾い、選択できる会計処理のなかから有利なものを選ぶ範囲が中心です。対策を考えるなら決算月の2〜3か月前が目安になります。
法人設立1期目で売上がほとんどありません。それでも申告は必要ですか?
必要です。売上ゼロでも事業年度は終了し、申告義務は発生します。法人税は0円でも、均等割の納付と青色申告の維持のために申告書を提出してください。
申告期限に間に合わなかったらどうなりますか?
無申告加算税と延滞税の対象になります。さらに、青色申告の承認を受けている法人が2事業年度連続で期限内に申告しなかった場合、承認が取り消される可能性があります。欠損金の繰越控除が使えなくなる影響は大きいため、間に合わない見込みが立った時点で税務署に相談してください。
決算書は誰かに提出する必要がありますか?
税務申告の添付書類として税務署・都道府県・市区町村に提出します。加えて、株式会社は決算公告の義務があります。合同会社には決算公告の義務がありません。この点は会社形態を選ぶ際の判断材料のひとつになります。
e-Taxとe-Taxソフト、どちらを使えばいいですか?
会計ソフトに法人税申告の機能があるなら、そこから直接e-Tax送信するのが手数は少なくなります。会計ソフト側に申告機能がない場合は、申告書作成に特化したサービスか国税庁のe-Taxソフトを使います。
送信時の本人確認の方法は、商業登記に基づく電子証明書、代表者のマイナンバーカード、税理士による代理送信など複数あり、どれを使うかで事前に用意するものが変わります。利用者識別番号の取得も含め、着手前にe-TaxとeLTAXの案内で自社に当てはまる手順を確認してください。
税務署に出す「法人事業概況説明書」は何を書くものですか?
事業内容、従業員数、主要な取引先、月別の売上と仕入、代表者の報酬額などを記載する書類です。決算書だけではわからない会社の実態を税務署が把握するためのもので、記載内容は税務調査の端緒にもなります。実態と合った数字を正確に書いてください。
役員報酬をいくらに設定すれば決算が楽になりますか?
決算の作業量は報酬額では変わりません。ただし社会保険料の算定、源泉徴収税額の計算、年末調整の処理はいずれも報酬額に連動します。毎月同額で、かつ端数の少ない金額にしておくと、給与計算と納付の確認が簡単になります。金額そのものは法人税・所得税・社会保険料の合計で考える必要があるため、初年度は税理士に試算してもらう価値があります。
個人事業の確定申告ができていれば、法人決算も自力でいけますか?
同じ感覚では進みません。発生主義での処理、貸借対照表の整合、別表の作成、地方税の申告、株主総会の手続きなど、個人の確定申告には出てこない工程が加わります。青色申告で複式簿記に慣れている方なら土台はありますが、初回は余裕をもったスケジュールを組んでください。
決算月を途中で変更できますか?
できます。株式会社なら株主総会の決議で定款を変更し、合同会社なら社員の同意で定款を変更したうえで、税務署・都道府県・市区町村に異動届出書を提出します。事業年度は1年を超えられないため、変更した期は12か月未満の事業年度になるのが通常です。その期の均等割は事務所等を有していた月数に応じて計算し、減価償却の限度額も事業年度の月数をもとに按分します。繁忙期と決算作業が重なって毎年つらい、という場合は検討の余地があります。
税務調査は一人法人にも来ますか?
規模が小さくても対象外ではありません。売上や利益の急変、同業他社と比べて不自然な経費構成、長期間調査が入っていないといった事情が重なると候補になります。日頃から帳簿と証憑を揃えておくことが最大の備えです。
