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消費税の3割特例とは|個人事業主の納税額と2割特例終了後の選び方

制度・申請

最終更新日:2026/09/29

消費税の3割特例とは|個人事業主の納税額と2割特例終了後の選び方

3割特例とは、インボイス登録などにより免税事業者でなくなった個人事業主が、令和9年分・令和10年分の消費税の納付税額を売上にかかる消費税額の3割にできる経過措置です。2割特例の終了後に納税額がいくら増えるのか、簡易課税とどちらが有利かを、フリーランスエンジニアの売上例で判断できるように整理します。

先に結論

  • 3割特例は一定の要件を満たす個人事業主向けの制度です。令和9年分・令和10年分の2年間に限り、納付税額を売上にかかる消費税額の3割にできます。法人は対象になりません

  • 対象外になりやすいのは、インボイス登録の有無に関係なく課税事業者だった人です。基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円を超えていると使えません

  • 2割特例が終わるのは「令和8年9月30日までの日の属する課税期間」まで。個人事業主の課税期間は暦年なので、令和8年分(2026年12月31日)までは2割特例が使えます。2026年9月末で打ち切られるわけではありません

  • 手続きは事前の届出が不要です。確定申告書に3割特例を適用する旨を付記するだけで済みます

  • エンジニアの受託開発は簡易課税だと第5種事業(みなし仕入率50%)に区分されることが多く、その場合は納付割合が売上税額の50%になります。3割特例の30%のほうが軽くなります

  • 令和11年分から簡易課税に移る場合、要件を満たすときは令和12年4月1日までの提出で間に合います。2割・3割特例の適用を受けた事業者には届出期限の特例があり、後出しできる扱いです

この記事でわかること

  • 3割特例の対象者・適用年分・計算方法と、根拠となる令和8年度税制改正の内容

  • 個人事業主と法人で異なる「2割特例の最終適用年分」の正確な考え方

  • 年商600万円・900万円のエンジニアが、2割特例から3割特例に移ると納税額がいくら増えるか

  • 3割特例・簡易課税・本則課税の有利不利を、納付割合で比べた判断基準

  • 令和11年分以降を見据えた簡易課税制度選択届出書の提出スケジュール

この記事は、インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった個人事業主のエンジニアを主な対象としています。基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていて、もともと課税事業者だった方は3割特例の対象外です。

目次

  • 3割特例とは|令和9年分・令和10年分の個人事業主向け経過措置

  • 3割特例を使える人・使えない人

  • 2割特例はいつまで使えるのか|個人事業主の最終適用年分

  • 3割特例の計算方法|エンジニアの売上別シミュレーション

  • 3割特例・簡易課税・本則課税のどれが有利か

  • 簡易課税への切り替えと令和11年分以降の備え

  • フリーランスエンジニアのケース別対応

  • よくある失敗と対策

  • 年分別スケジュールと判断チェックリスト

  • まとめ

  • よくある質問

3割特例とは|令和9年分・令和10年分の個人事業主向け経過措置

3割特例とは、一定の個人事業主が令和9年分・令和10年分の消費税を売上税額の30%で計算できる経過措置です。令和8年度税制改正で新設された負担軽減措置で、正式には「小規模個人事業者に係る税額控除に関する経過措置」と呼ばれます。国税庁の令和8年度税制改正特集(インボイス制度)で内容が公開されています。

納付税額は「売上にかかる消費税額の3割」

国税庁の改正リーフレットは、次のように説明しています。課税標準額に対する消費税額から控除する金額を、その課税標準額に対する消費税額に7割を乗じた額とする。結果として、納付税額は課税標準額に対する消費税額の3割になります。

実務的にはシンプルです。売上にかかった消費税だけ把握できれば、経費側の消費税を集計しなくても納税額が決まります。帳簿づけの負担が軽いという点では、2割特例と同じ発想の制度です。

適用できるのは令和9年分と令和10年分の2年間のみ。期間限定の経過措置であり、恒久的な制度ではありません。

2割特例との違いは負担割合と対象者

2割特例から引き継がれた部分と、変わった部分があります。

項目

2割特例

3割特例

納付税額

売上にかかる消費税額の20%

売上にかかる消費税額の30%

対象者

個人事業主・法人の両方

個人事業主のみ

適用できる期間

令和8年9月30日までの日の属する課税期間

令和9年分・令和10年分

事前の届出

不要

不要

申告時の手続き

確定申告書に適用する旨を付記

確定申告書に適用する旨を付記

基本的な適用条件

インボイス登録により免税事業者でなくなった課税期間

同左

負担割合が20%から30%に上がり、対象が個人事業主に絞られた。この2点が改正の要点です。2割特例そのものの詳細は「インボイス2割特例とは|対象・計算方法・いつまで使えるかを解説」で解説しています。

法人は3割特例の対象外

法人には3割特例の適用がありません。2割特例が終わった課税期間からは、簡易課税か本則課税のどちらかで申告することになります。

12月決算の法人であれば、令和8年12月期までが2割特例の対象です。令和9年12月期からは特例なしの申告に切り替わります。マイクロ法人を設立して消費税の負担を抑えようと考えている場合、この改正で個人と法人の扱いが分かれた点は判断材料になります。法人化そのものの損得は「マイクロ法人とは?フリーランスエンジニアの節税戦略・メリット・デメリット・設立手順を徹底解説」で整理しています。

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3割特例を使える人・使えない人

対象は「インボイス登録をしていなければ免税事業者だったはずの個人事業主」です。売上規模が小さく、制度対応のために課税事業者になった人を救済する趣旨の措置といえます。

対象は「登録がなければ免税だったはず」の個人事業主

国税庁のリーフレットは適用範囲を次のように限定しています。免税事業者が適格請求書発行事業者となったこと、または課税事業者選択届出書を提出したことにより、事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる課税期間に限り適用できる。

かみ砕くと、3つの条件をすべて満たす必要があります。

  1. 個人事業主であること(法人は対象外)

  2. インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)の登録を受けていること

  3. インボイス登録や課税事業者選択届出書の提出がなければ、その年は免税事業者だったこと

3つめが実質的な売上要件です。国税庁は「基準期間(適用を受ける年の2年前)の課税売上高が1,000万円以下」という形でも説明しています。

基準期間・特定期間で課税事業者になる人は対象外

判定に使うのは適用を受ける年ではなく、その2年前の課税売上高です。ここを取り違えると判断を誤ります。

令和9年分に3割特例を使えるかどうかは、令和7年分の課税売上高で決まります。令和7年に1,200万円を売り上げていれば、令和9年はインボイス登録の有無に関係なく課税事業者なので、3割特例は使えません。逆に令和7年が800万円であれば、令和9年の売上が1,300万円に伸びても3割特例の対象です。

特定期間の判定にも注意が必要です。前年の1月1日から6月30日までの課税売上高が1,000万円を超え、かつ同じ期間の給与等の支払額も1,000万円を超えると、その年は課税事業者になります。この場合も3割特例は使えません。ただし外注先への報酬は給与等に含まれないため、一人で働くエンジニアがこの条件に当たるケースは多くありません。

課税事業者の判定そのものは「フリーランスエンジニアの消費税|インボイス・課税事業者判定・簡易課税まで解説」で詳しく扱っています。

ミニFAQ:令和9年の途中でインボイス登録をやめたら、その年は3割特例を使えますか。

登録取消しの効力が発生する日と、その年に課税事業者となるかどうかの判定は別の論点になりうるため、一律には決まりません。取消届出書の提出時期によって効力発生日が変わり、基準期間の課税売上高次第では登録をやめても課税事業者のままになるケースもあります。納税義務そのものに直結する部分なので、実行前に所轄税務署か税理士へ確認してください。判断材料は「インボイス登録の取りやめ|判断基準と手続き・取引への影響」にまとめています。

2割特例はいつまで使えるのか|個人事業主の最終適用年分

ここは誤解が広がりやすい論点です。結論から書くと、個人事業主は令和8年分(2026年12月31日)まで2割特例を使えます。

「令和8年9月30日までの日の属する課税期間」の読み方

国税庁のリーフレットにある表現は「現行の2割特例は、令和8年9月30日までの日の属する課税期間で終了します」です。終了するのは9月30日を含む課税期間が終わったときであって、9月30日当日ではありません。

個人事業主の消費税の課税期間は、原則として1月1日から12月31日までの暦年です。令和8年9月30日が属する課税期間は令和8年1月1日〜令和8年12月31日。つまり令和8年分まるごとが2割特例の対象になります。

「2026年9月30日で2割特例が終了する」と書かれた解説を見かけますが、個人事業主にとっては正確ではありません。2026年10月から12月の売上についても、令和8年分の申告では2割特例が使えます。

個人事業主と法人の最終適用年分

事業形態と決算期で最終年分が変わります。

事業形態

2割特例の最終適用課税期間

その次の課税期間の扱い

個人事業主

令和8年分(2026年1月1日〜12月31日)

令和9年分・令和10年分は3割特例が使える

法人(12月決算)

令和8年12月期

令和9年12月期から特例なし(簡易課税または本則課税)

法人(3月決算)

令和9年3月期(令和8年9月30日を含む)

令和10年3月期から特例なし

法人の場合は決算期によって最終の課税期間がずれます。9月30日がどの事業年度に入るかで判定してください。

個人事業主の年分ごとの適用関係

年分

使える特例

消費税の申告期限

令和8年分

2割特例

原則として令和9年3月31日

令和9年分

3割特例

原則として令和10年3月31日

令和10年分

3割特例

原則として令和11年3月31日

令和11年分

なし(簡易課税または本則課税)

原則として令和12年3月31日

個人事業主の消費税の確定申告期限は、原則として翌年3月31日です。所得税の3月15日とは日付が違います。期限が土日祝に当たる年は翌営業日にずれるため、実際の期限は国税庁が公表する各年分の申告期日で確認してください。所得税側の申告手続きは「フリーランスエンジニアの確定申告|やり方・必要書類・期限をわかりやすく解説」を参照してください。

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3割特例の計算方法|エンジニアの売上別シミュレーション

計算は売上側だけで完結します。経費にかかった消費税を集計する必要はありません。

計算式と申告時の手続き

納付税額は次の式で求めます。

納付税額 = 課税売上にかかる消費税額 × 30%

課税売上にかかる消費税額は、税抜きの課税売上高に税率を掛けた金額です。エンジニアの受託開発報酬は標準税率10%が基本なので、税抜売上高の10%が売上税額になります。

手続きは事前の届出が不要です。国税庁のリーフレットは「3割特例の適用を受けようとする場合には、確定申告書にその旨を付記する必要があります」としています。申告のタイミングで判断すればよく、年の初めに決め打ちする必要はありません。

年商600万円・900万円のケース

税抜売上高を基準に、納付税額を計算方式別に並べます。課税売上はすべて税率10%とし、課税仕入れは経費のうち消費税がかかるものだけを対象とした仮定例です。簡易課税は第5種に区分される場合の数字を置いています。

税抜年商600万円(売上にかかる消費税60万円)の場合

計算方式

納付税額の計算

納付税額

2割特例(令和8年分まで)

60万円 × 20%

12万円

3割特例(令和9年分・令和10年分)

60万円 × 30%

18万円

簡易課税(第5種に区分される場合・みなし仕入率50%)

60万円 × 50%

30万円

本則課税(課税仕入れ100万円と仮定した例)

60万円 − 10万円

50万円

税抜年商900万円(売上にかかる消費税90万円)の場合

計算方式

納付税額の計算

納付税額

2割特例(令和8年分まで)

90万円 × 20%

18万円

3割特例(令和9年分・令和10年分)

90万円 × 30%

27万円

簡易課税(第5種に区分される場合・みなし仕入率50%)

90万円 × 50%

45万円

本則課税(課税仕入れ150万円と仮定した例)

90万円 − 15万円

75万円

本則課税の金額は、課税仕入れを売上の約17%と置いた概算です。自宅作業中心で経費の少ないエンジニアを想定した仮定であり、実額ではありません。実際の課税仕入れ額は働き方によって大きく変わります。人件費や保険料など消費税がかからない支出は課税仕入れに含まれず、税率が混在する場合や仕入税額控除に個別の制限がかかる場合は結果が変わります。

2割特例から納税額はいくら増えるか

負担割合が20%から30%へ、1.5倍になります。金額でいえば売上にかかる消費税額の10%分が増加分です。

税抜年商600万円なら年6万円、900万円なら年9万円。月あたりに直すと5,000円〜7,500円程度の差です。令和9年分の納付は令和10年3月末までなので、準備期間は1年以上あります。

手取りへの影響が気になる場合、そもそもの単価水準を見直すのも選択肢です。自分がどのくらいの単価を狙えるかは、無料のフリーランスエンジニア単価診断で市場の目安を確認できます。単価を体系的に上げる考え方は「フリーランスエンジニアの単価相場と単価の上げ方」で整理しています。

3割特例・簡易課税・本則課税のどれが有利か

3割特例が使える令和9年分・令和10年分については、エンジニアの多くで3割特例が最も納税額が軽くなります。ただし課税仕入れが極端に多い場合は本則課税が逆転します。

エンジニアの受託開発は第5種事業になるケースが多い

簡易課税制度では、業種ごとに定められた「みなし仕入率」で仕入税額を計算します。国税庁のNo.6505 簡易課税制度によると、区分は次のとおりです。

事業区分

業種

みなし仕入率

納付割合

第1種

卸売業

90%

売上税額の10%

第2種

小売業、農業・林業・漁業

80%

売上税額の20%

第3種

鉱業、建設業、製造業等

70%

売上税額の30%

第4種

上記以外

60%

売上税額の40%

第5種

運輸通信業、金融・保険業、サービス業等

50%

売上税額の50%

第6種

不動産業

40%

売上税額の60%

事業区分は日本標準産業分類の大分類を基礎に判定されるため、契約内容や業務実態によって結論が変わります。そのうえで、受託開発やシステム保守のような役務提供は第5種事業(サービス業等)として扱われるケースが多くなります。複数の事業を兼ねている場合や、成果物の引渡しを伴う請負契約が中心の場合は別の区分になることもあるため、国税庁のNo.6509 事業区分の判定を確認し、判断に迷う場合は所轄税務署か税理士に相談してください。

なお簡易課税を選べるのは、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間に限られます。

納付割合で並べると3割特例が最も軽い

判断は納付割合の比較で足ります。

  • 3割特例:売上税額の30%

  • 簡易課税(第5種):売上税額の50%

  • 本則課税:売上税額 − 実際の仕入税額

第5種に区分される売上が中心のエンジニアであれば、3割特例(30%)のほうが簡易課税(50%)より納付額は小さくなります。令和9年分・令和10年分について、一般には簡易課税をあえて選ぶ理由は小さいでしょう。

一方で第3種(みなし仕入率70%)に区分される事業を営んでいる場合、納付割合は3割特例と同じ30%になります。複数の事業を兼ねている場合は、区分ごとの売上構成で比べてください。

本則課税が有利になるケース

本則課税が3割特例を下回るのは、課税仕入れにかかる消費税が売上税額の70%を超える場合です(標準税率中心で、控除対象外の支出や仕入税額控除の個別制限を考慮しない単純比較)。

税抜年商600万円(売上税額60万円)なら、課税仕入れにかかる消費税が42万円を超えるかどうかが分岐点。金額でいえば税抜420万円以上の課税仕入れが必要です。売上の7割を課税仕入れが占める計算になります。

外注を多用している、機材やライセンスへの投資が大きい年がある、といった事情があれば検討の余地があります。ただし本則課税は取引ごとにインボイスを保存し、仕入税額を集計する事務負担が発生します。何が課税仕入れになるかの判断は「フリーランスエンジニアが経費にできるもの一覧|勘定科目・判断基準・仕訳例を徹底解説」が参考になります。

ミニFAQ:3割特例を使うと決めたら、年の初めに届出が必要ですか。

不要です。確定申告書に適用する旨を付記するだけなので、1年分の売上と経費が確定してから、どの方式が有利かを計算して決められます。本則課税と比べたい場合に備えて、帳簿と請求書の保存は通常どおり続けてください。

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簡易課税への切り替えと令和11年分以降の備え

3割特例は令和10年分で終わります。令和11年分からは簡易課税か本則課税を選ぶことになりますが、届出期限には特例があり、あわてて年内に判断する必要はありません。

原則は「課税期間の初日の前日まで」

簡易課税制度選択届出書の提出期限は、原則として適用を受けたい課税期間の初日の前日までです。令和11年分から簡易課税を使うなら、本来は令和10年12月31日までに提出しなければなりません。

2割・3割特例の適用者には提出期限の特例がある

令和8年度税制改正で、この期限が緩和されました。国税庁のリーフレットは次のように説明しています。2割特例や3割特例の適用を受けた適格請求書発行事業者が、その適用を受けた課税期間の翌課税期間に係る確定申告期限までに簡易課税制度選択届出書を提出したときは、その翌課税期間から簡易課税制度を適用することができる。

つまり3割特例を使った令和10年分の翌年、令和11年分の申告期限までに届出書を出せば、令和11年分から簡易課税を適用できます。リーフレットは具体例として、令和11年分の消費税の確定申告期限である令和12年4月1日までに提出すればよいと示しています。

1年分の売上と経費が出そろってから、簡易課税と本則課税のどちらが有利かを計算して決められる。事前に見込みで判断しなくてよいという点で、実務上の意味は大きい制度改正です。

令和11年分から簡易課税にする場合のスケジュール

時期

やること

令和10年12月末

令和10年分の売上を確定させる

令和11年3月31日(土曜のため4月2日)

令和10年分の消費税を3割特例で申告・納付

令和11年中

令和11年分の課税仕入れを集計しておく

令和12年4月1日まで

簡易課税と本則課税を比較し、簡易課税が有利なら選択届出書を提出

同日まで

令和11年分の消費税を申告・納付

なお簡易課税を一度選ぶと、原則として2年間は本則課税に戻せません。届出書の提出前に、翌々年に大きな設備投資の予定がないかを確認しておくと安全です。

フリーランスエンジニアのケース別対応

令和5年〜令和8年にインボイス登録した人

2割特例を使ってきた人が、そのまま3割特例に移行できる典型パターンです。令和8年分までは2割特例、令和9年分と令和10年分は3割特例。いずれも届出は不要なので、当面やることは納税額の増加分を見込んで資金を確保しておくことだけです。

売上規模が変わらなければ、負担増は売上にかかる消費税額の10%分。月次で少しずつ別口座に取り置きしておくと、申告期限に慌てずに済みます。

月単価83万円を超えると2年後に対象外になる

基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると、3割特例の対象から外れます。令和9年分の判定は令和7年分、令和10年分の判定は令和8年分の課税売上高です。

エンジニアの場合、この1,000万円ラインは単価に直すと見えやすくなります。12か月フル稼働を前提にすると、月単価83.4万円あたりが年商1,000万円の境目です。週5日で年間を通じて稼働できる、実務経験5年以上の中堅以上を想定した目安と考えてください。稼働が途切れる月があれば年商は下がります。

月単価(税抜)

12か月稼働の年商

1,000万円ライン

2年後の3割特例

50万円

600万円

以下

対象

60万円

720万円

以下

対象

70万円

840万円

以下

対象

80万円

960万円

以下(余裕は小さい)

対象

83.4万円

約1,001万円

超える

対象外

90万円

1,080万円

超える

対象外

主要フリーランスエージェント数社の公開案件(首都圏中心・フルリモート・週5日の準委任案件)を2026年9月時点で見る限りでは、月80万円前後で募集されるケースも見られます。この水準で通年稼働すると、2年後に3割特例を外れる可能性が出てきます。単価を上げた結果として消費税の計算方式が変わる、という順序を頭に入れておくと計画が立てやすくなります。

なお年の途中で契約が途切れた、稼働日数を落としたといった事情があれば年商は下がります。判定はあくまで実際の課税売上高で行うため、単価だけで決めつけないでください。自分の単価水準が市場のどのあたりかはフリーランスエンジニア単価診断で確認できます。

すでに令和7年分が1,000万円を超えていれば、令和9年分は簡易課税か本則課税での申告になります。この場合、簡易課税制度選択届出書の提出期限は原則どおり令和8年12月31日までなので、期限に注意してください。2割特例を適用した課税期間の翌課税期間に当たるため、前述の提出期限の特例が使える可能性もあります。適用関係は個別事情で変わるので、税務署か税理士に確認するのが確実です。

インボイス登録の取りやめを検討している人

取引先が課税事業者ばかりでない場合、登録をやめて免税事業者に戻る選択肢もあります。ただし発注側の仕入税額控除の経過措置は、令和8年10月1日以降に控除可能割合が80%から70%へ引き下げられました。免税事業者と取引する側の負担は段階的に増えていきます。

単価交渉への影響を含めた判断材料は「インボイス経過措置は2026年10月に70%へ|免税フリーランスの単価交渉」で整理しています。登録取りやめの手続きそのものは「インボイス登録の取りやめ|判断基準と手続き・取引への影響」を参照してください。

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よくある失敗と対策

「2026年9月末で2割特例が終わる」と思い込む

個人事業主の課税期間は暦年です。令和8年9月30日が属する課税期間、すなわち令和8年分の全体が2割特例の対象になります。10月以降の売上を別扱いする必要はありません。年の途中で計算方式が切り替わると誤解すると、帳簿づけが無駄に複雑になります。

適用年の売上で対象可否を判定してしまう

判定に使うのは2年前の課税売上高です。「今年は900万円だから3割特例が使えるはず」と考えるのは誤りで、令和9年分の判定材料は令和7年分の数字になります。

3割特例を使うつもりで帳簿づけをやめてしまう

3割特例の計算に課税仕入れの集計は不要ですが、所得税の申告には経費の記帳が必要です。青色申告特別控除の要件にも帳簿の保存が絡みます。消費税の計算方式にかかわらず、記帳と証憑保存は続けてください。

簡易課税の届出期限を原則どおりだと思い込む

2割特例・3割特例の適用者には提出期限の特例があります。原則の「初日の前日まで」で考えて年内に急いで判断すると、比較材料が足りないまま選んでしまいます。翌年の申告期限まで待てるケースかどうかを先に確認してください。

消費税の申告期限を所得税と同じだと考える

個人事業主の消費税の申告期限は原則として翌年3月31日で、所得税の3月15日より半月ほど後ろです。逆に「所得税と同じ3月15日」と思い込んで前倒しする分には問題ありませんが、納付資金の準備計画を立てるときは正しい期限で考えておくほうが安全です。

年分別スケジュールと判断チェックリスト

令和8年分から令和11年分までの流れを1枚にまとめます。個人事業主・課税売上高1,000万円以下・インボイス登録済みを前提とした整理です。

年分

適用できる計算方式

納付割合の目安

必要な手続き

令和8年分

2割特例

売上税額の20%

申告書に付記のみ

令和9年分

3割特例

売上税額の30%

申告書に付記のみ

令和10年分

3割特例

売上税額の30%

申告書に付記のみ

令和11年分

簡易課税または本則課税

第5種なら50% / 本則は実額

簡易課税を選ぶなら令和12年4月1日までに届出書

着手前に確認しておきたい項目を挙げます。

  • 令和7年分・令和8年分の課税売上高が1,000万円以下かどうかを確認したか

  • インボイス発行事業者の登録が現在も有効か

  • 令和9年分の納税額の増加分(売上税額の10%相当)を資金計画に織り込んだか

  • 自分の事業が簡易課税で第5種に当たるかを確認したか

  • 令和11年分に向けて、簡易課税と本則課税を比較する材料(課税仕入れの集計)を用意する段取りがあるか

  • 大きな設備投資の予定が令和11年〜令和12年にないか(簡易課税の2年縛りとの関係)

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まとめ

個人事業主のエンジニアは、令和8年分まで2割特例、令和9年分・令和10年分は3割特例を使い、令和11年分から簡易課税か本則課税に移る。これが基本の流れです。

  • 3割特例は個人事業主限定で、令和9年分・令和10年分の2年間のみ。納付税額は売上にかかる消費税額の30%

  • 2割特例の終了は「令和8年9月30日を含む課税期間の末日」まで。個人事業主は令和8年分を通して使える

  • 対象判定は2年前の課税売上高が1,000万円以下かどうか。適用年の売上高ではない

  • 事前届出は不要で、確定申告書への付記だけ。1年分の数字を見てから判断できる

  • 第5種事業のエンジニアなら、納付割合は3割特例30%に対し簡易課税50%。令和9年分・令和10年分は3割特例が有利

  • 令和11年分から簡易課税にするなら、届出は令和12年4月1日まで。提出期限の特例で後出しが認められている

まず確認する3項目は、①令和7年分・令和8年分の課税売上高が1,000万円以下かどうか ②令和9年分の納税増加額(売上税額の10%相当)の試算 ③令和11年分に向けた簡易課税と本則課税の比較準備、の3つです。この順に手を付ければ、令和9年3月の申告までに判断が固まります。

制度の詳細や個別の判断については、税理士など専門家への確認をおすすめします。特に事業区分の判定や、簡易課税と本則課税の選択は、事業実態によって結論が変わります。

参照した一次情報は以下のとおりです。

よくある質問

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使えません。個人事業主に限られた措置です。2割特例は法人も対象でしたが、3割特例では対象から外れました。12月決算の法人なら令和8年12月期が2割特例の最後で、令和9年12月期からは簡易課税か本則課税での申告になります。

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基準期間である令和7年に事業を行っていなければ課税売上高はゼロとみなされ、令和9年分は3割特例の対象になる可能性が高いです。ただし特定期間の判定や課税事業者選択届出書の提出状況によって結論が変わります。開業初年度の扱いは「開業1年目の確定申告|売上規模別の判断と提出書類【令和8年分】」もあわせて確認してください。

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簡易課税制度選択届出書を提出していない状態であれば、令和9年分・令和10年分は3割特例、令和11年分から簡易課税という流れが自然です。届出書を先に出してしまうと簡易課税が適用される点に注意してください。なお2割特例と同様、簡易課税を選択している場合でも要件を満たせば3割特例を適用できる扱いとされています(国税庁の令和8年度税制改正特集参照)。適用関係が複雑になるため、届出済みの方は税務署か税理士に確認してください。

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3割特例では還付は生じません。売上税額の3割を納めるだけの計算なので、仕入税額が売上税額を上回っても差額は戻ってきません。還付を受けたい年は本則課税で申告する必要があります。高額な機材を購入する予定がある年は、本則課税との比較を忘れないでください。

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違います。個人事業主の場合、所得税は原則として翌年3月15日、消費税は原則として翌年3月31日です。いずれも期限が土日祝に当たる年は翌営業日にずれます。納付もそれぞれの期限までに済ませる必要があります。

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含まれます。課税標準額に対する消費税額が計算の基礎なので、税率ごとに区分して売上税額を計算し、その合計の3割が納付税額になります。エンジニアの受託開発報酬は標準税率10%が基本ですが、物販を兼業している場合は区分経理が必要です。

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不要です。簡易課税制度選択届出書を提出していなければ、自動的に本則課税になります。届出が必要なのは簡易課税を選ぶときだけです。ただし本則課税ではインボイスの保存が仕入税額控除の要件になるため、令和11年分の取引から証憑管理を整えておく必要があります。

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第5種事業で簡易課税を選んだ場合、納付割合は売上税額の30%から50%に上がります。税抜年商600万円なら年18万円から30万円へ、900万円なら27万円から45万円へ増える計算です。令和11年分の納付は令和12年春なので、令和10年のうちから積み立てておくと負担感が和らぎます。

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直接は関係ありません。3割特例はインボイス発行事業者が対象です。ただし取引先側の仕入税額控除の割合が令和8年10月から70%に下がっているため、免税事業者のままでいる場合は単価交渉に影響が出る可能性があります。

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国税庁のリーフレットは「確定申告書にその旨を付記する必要があります」としています。ただし現時点では、令和9年分の申告書様式や記載要領が公表される前の段階です。実際の記入箇所やe-Taxでの操作方法は、申告時期までに国税庁が公表する様式・記載要領とe-Taxの案内で確認してください。申告の操作手順そのものは「e-Taxで確定申告するやり方|フリーランスエンジニア向け操作手順・必要書類・つまずきポイント【令和8年分】」が参考になります。

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複数事業を兼業していて事業区分の判定が必要な場合、課税売上高が1,000万円前後で判定が微妙な場合、本則課税との比較に手間がかかる場合などです。費用感の目安は「フリーランスエンジニアの確定申告|税理士費用の相場と依頼するかの判断基準」にまとめています。

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