フリーランス法の禁止行為7つ|受領拒否・報酬減額・買いたたきの具体例
最終更新日:2026/10/21
フリーランス法の禁止行為とは、1か月以上の期間で行う(または行う予定の)業務委託について、法第5条が発注者に禁じる7つの行為です。報酬の減額や買いたたきが代表例で、フリーランス本人が合意していても違反になり得ます。準委任で働くエンジニアには適用されない類型もあるため、自分の契約形態でどれが効くかを先に押さえておきましょう。
先に結論
禁止行為は7類型。第5条第1項に5つ(受領拒否・報酬の減額・返品・買いたたき・購入利用強制)、第2項に2つ(不当な経済上の利益の提供要請・不当な給付内容の変更やり直し)がある
適用の入口は「1か月以上」の業務委託。1か月未満の単発案件には原則として第5条の禁止行為は及ばないが、更新で通算1か月以上になる場合や、1か月以上行う予定の場合は対象になる
受領拒否と返品は、役務提供委託(SES・準委任の常駐)には適用されない。該当しうるのは第5条第2項第2号のほう
「本人が合意していた」「悪気はなかった」は免責にならない。公正取引委員会の解説資料が明記している
公表された勧告事例を見る限り、明示義務違反と支払期日違反が目立つ。令和7年度の勧告10件では、禁止行為として報酬の減額1件と不当な経済上の利益の提供要請1件が挙がっている
違反かもしれないときは、公正取引委員会への申出かフリーランス・トラブル110番へ。申出を理由にした報復措置も法で禁じられている
この記事でわかること
フリーランス法第5条の禁止行為7類型それぞれの定義と、エンジニア案件での具体例
準委任(SES常駐)と請負・成果完成型で、適用される禁止行為がどう変わるか
報酬の減額・返品が例外的に認められる条件と、その線引き
2026年に公表された実際の勧告事例(買いたたき・報酬の減額)の中身
違反を疑ったときに揃える記録と、相談窓口の使い分け
対象読者は、業務委託で案件を受けている個人のフリーランスエンジニアです。法人化していても、代表者以外の役員がおらず従業員を使用していなければ、フリーランス法の「特定受託事業者」にあたります。ここでいう従業員とは、週の所定労働時間が20時間以上で、かつ継続して31日以上雇用される見込みの労働者を指します。
なお本記事は、公正取引委員会・厚生労働省が公表している資料にもとづく一般的な制度解説です。個別の案件が違反にあたるかどうかは契約内容や事実関係で判断が変わるため、具体的な判断は後述の相談窓口や弁護士に確認してください。
目次
フリーランス法の禁止行為7類型とは|適用は「1か月以上」から
第5条第1項の禁止行為5つ|受領拒否から購入・利用強制まで
第5条第2項の禁止行為2つ|著作権の無償譲渡と手戻り
契約形態別|エンジニア案件でどの禁止行為が効くか
実際の勧告から見る|どの類型で行政が動いているか
7類型に「含まれないもの」|取適法との線引き
違反かもしれないときの初動と相談先
よくある失敗と契約前後のチェックリスト
まとめ
よくある質問
フリーランス法の禁止行為7類型とは|適用は「1か月以上」から
結論から書くと、禁止行為が効くのは1か月以上の業務委託です。それ未満の案件では、取引条件の明示義務などは生きていても、7類型の規定は適用されません。
フリーランス法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」。2024年11月1日に施行されました。公正取引委員会のフリーランス法特設サイトが、7類型をまとめて解説しています。
禁止行為7類型の早見表
# | 禁止行為 | 根拠条文 | 概要 |
|---|---|---|---|
1 | 受領拒否 | 第5条第1項第1号 | 注文した物品または情報成果物の受領を拒むこと |
2 | 報酬の減額 | 第5条第1項第2号 | あらかじめ定めた報酬を減額すること |
3 | 返品 | 第5条第1項第3号 | 受け取った物を返品すること |
4 | 買いたたき | 第5条第1項第4号 | 通常支払われる対価に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること |
5 | 購入・利用強制 | 第5条第1項第5号 | 正当な理由なく、指定する物の購入や役務の利用を強制すること |
6 | 不当な経済上の利益の提供要請 | 第5条第2項第1号 | 自己のために金銭・役務などを提供させ、利益を不当に害すること |
7 | 不当な給付内容の変更・やり直し | 第5条第2項第2号 | 費用を負担せずに注文内容を変更し、または受領後にやり直しをさせること |
いずれも「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに」が前提です。つまり、こちらに落ち度がある場合は別の話になります。
「1か月以上」の数え方
期間の計算は、初日を算入します。注意したいのは、すでに1か月を超えた案件だけが対象ではない点です。公正取引委員会・厚生労働省の「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(令和6年5月31日策定、令和7年10月1日・令和8年10月1日改正)は、次の3つをいずれも対象としています。
単一の業務委託または基本契約が1か月以上の期間である場合
1か月以上行うことを予定している業務委託
契約の更新により、通算して1か月以上継続して行うこととなる業務委託
3か月更新の準委任案件は、当然1か月以上に該当します。1か月更新でも、更新して通算1か月以上になればそれ以降は対象です。契約期間そのものの実務は「業務委託の契約期間|1ヶ月・3ヶ月更新の実態と更新判断の時期」で整理しています。
なお、契約が終了する日を定めなかった場合は、1か月以上の期間であるものとして扱われます。
合意があっても、悪気がなくても違反になる
ここが実務上いちばん重要です。考え方の資料は、フリーランスの了解を得ていても、合意があっても、発注側に違法性の意識がなくても、これらの行為を行えば法違反になると明記しています。
「減額に同意しましたよね」と言われても、それだけで適法にはなりません。逆に言えば、押し切られて一度サインしてしまった後でも、相談する余地は残っています。
ミニFAQ
発注元が個人事業主でも、禁止行為の対象になりますか。
発注側が従業員を使用しておらず、代表者以外の役員もいない場合は「特定業務委託事業者」にあたらず、第5条の禁止行為は適用されません。この場合に課されるのは、主に取引条件の明示義務です。
第5条第1項の禁止行為5つ|受領拒否から購入・利用強制まで
5つのうち2つは、役務提供委託には適用されません。まずそこから。
受領拒否の禁止|役務提供委託は対象外
受領拒否とは、責めに帰すべき事由がないのに給付の受領を拒むことです。
役務の提供委託については、本号の対象となりません。 ただし、給付の目的物が存在する役務提供委託で発注者がその目的物を受け取らなかった場合には、第5条第2項第2号(不当な給付内容の変更・やり直し)に該当する場合があります。
SES・準委任で常駐しているエンジニアは、そもそも「物を納める」構造ではありません。受領拒否ではなく、後述の7番目の類型で考えることになります。契約形態の違いは「準委任契約と請負契約の違い|フリーランスエンジニアが知るべきリスクと注意点」が詳しいです。
受領を拒むことが認められるのは、給付の内容が委託内容と適合しない場合などに限られます。
報酬の減額の禁止|名目を問わない
一度決めた報酬を後から減らす行為です。買いたたきが発注時点で生じるのに対し、減額は事後に生じる、という違いがあります。
名目は問われません。「システム利用料」「事務手数料」「コンプライアンス対応費用」といった控除も、あらかじめ定めた報酬から差し引けば減額に該当しうる。実際、2026年5月に公表された勧告では、まさにこの形が問題になりました。
減額が認められるのは、責めに帰すべき事由があるとして次に該当する場合に限られます。
委託内容と適合しないこと、納期遅れ等があり、受領拒否または返品が法違反とならない場合に、受領拒否・返品をしてその報酬を減ずるとき
同じ条件下で受領拒否・返品をせず、発注者が自ら手直しをした場合に、手直しに要した費用等の客観的に相当と認められる額を減ずるとき
同じ条件下で、委託内容との不適合や納期遅れによる商品価値の低下が明らかな場合に、客観的に相当と認められる額を減ずるとき
いずれも「客観的に相当と認められる額」が条件です。発注者が一方的に決めた金額を差し引ける、という意味ではありません。
返品の禁止|検査期間には上限がある
受領後に給付に係る物を引き取らせる行為です。こちらも役務提供委託は対象外で、目的物を引き取らせた場合は第5条第2項第2号に該当する場合があります。
返品できる期間には、考え方の資料が具体的な線を引いています。
不適合の性質 | 返品が認められる期間 |
|---|---|
直ちに発見できる不適合 | 受領後速やかに返品することは認められる(意図的に検査期間を延ばした後の返品は不可) |
直ちに発見できない不適合 | 受領後6か月以内。6か月を超えた返品は法違反 |
発注者の商品に6か月超の保証期間を定めている場合 | その保証期間に応じて最長1年以内 |
受託側の責任で不具合に対応する範囲については、「契約不適合責任|業務委託・請負で不具合発覚時の対応と防衛策」を合わせて読むと整理しやすいはずです。
買いたたきの禁止|判断要素は4つ
買いたたきとは、同種または類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比べ、著しく低い報酬の額を不当に定めることをいいます。
該当するかは、次の要素を勘案して総合的に判断されます。
報酬の額の決定にあたり、十分な協議が行われたかどうかなど対価の決定方法
差別的であるかどうかなど対価の決定内容
「通常支払われる対価」と当該給付に支払われる対価との乖離状況
当該給付に必要な原材料等の価格動向
該当するおそれがある具体例として、考え方の資料は「継続的な委託を行い大量の発注をすることを前提として単価の見積りをさせ、その見積価格の単価を、短期で少量の委託しかしない場合の単価として報酬の額を定めること」などを挙げています。エンジニア案件に置き換えると、長期前提の単価を提示させておいて、実際には1か月だけ発注してその単価で押し通すようなケースが近い構造です。
また、コストが著しく上昇しているのに報酬を据え置いた場合も、最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額など、経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から上昇を把握できるときは、著しく低い額とされることがあります。
ここで効いてくるのが「通常支払われる対価」の感覚です。自分の提示額が市場からどれくらい離れているかを把握しておくと、協議の場で根拠を示しやすくなります。無料のフリーランスエンジニア単価診断で現在の市場単価の目安を確認できます。単価を体系的に上げる考え方は「【2026年最新版】フリーランスエンジニアの単価相場と単価の上げ方とは?」で整理しています。
交渉の進め方そのものは「フリーランスエンジニアの単価交渉のコツ|タイミング・伝え方・根拠の作り方」が参考になります。
購入・利用強制の禁止|「任意のお願い」でも該当しうる
給付の内容を均質にする、または改善を図るために必要な場合などの正当な理由を除き、指定する物を強制して購入させたり、役務を強制して利用させたりする行為です。
重要なのは「強制して」の解釈の広さ。取引の条件にする場合や、購入しないことに不利益を与える場合だけでなく、取引関係を利用して事実上余儀なくさせていると認められる場合も含まれます。発注側が任意の依頼と認識していても、受託側が拒否できない状況なら法違反になりえます。
該当するおそれのある例としては、発注先の選定に影響を及ぼす立場の人が購入を要請すること、受託者ごとに目標額を定めて要請すること、購入しなければ不利益な扱いをする旨を示唆すること、購入の意思がないと表明した後に重ねて要請することなどが挙げられています。
第5条第2項の禁止行為2つ|著作権の無償譲渡と手戻り
第2項の2つは「特定受託事業者の利益を不当に害するもの」であることが要件です。エンジニアにとっては、こちらのほうが日常的に遭遇しやすい。
不当な経済上の利益の提供要請|知的財産権の無償譲渡もここ
自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させ、受託者の利益を不当に害する行為です。協賛金・協力金といった名目は問わず、報酬の支払とは独立して行われる金銭の提供や、作業への労務の提供も含みます。
エンジニアに直結するのが、知的財産権の扱いです。考え方の資料は、業務委託の目的物たる給付に関して受託者の知的財産権等が発生する場合に、発注者がその譲渡・許諾等を「給付の内容」としていないにもかかわらず、無償で譲渡・許諾等させることは本類型に該当するとしています。
さらに、受託者が知的財産権等を有する情報成果物について、収益を配分しない、配分割合を一方的に定める、二次利用を制限するなどして利益を不当に害する場合も該当するとされています。
契約書で権利の帰属がどう書かれているかは、締結前に必ず見るべき箇所です。確認の観点は「業務委託契約書の確認ポイント|フリーランスエンジニアが締結前に見る条項とチェックリスト」にまとめています。
なお、提供が受託者の直接の利益になるものとして自由な意思で行われる場合は、利益を不当に害するとはいえないとされています。ここでいう直接の利益に、将来の取引が有利になるというような間接的な利益は含まれません。
不当な給付内容の変更・不当なやり直し|費用負担がすべて
責めに帰すべき事由がないのに、給付の内容を変更させたり、受領後にやり直しをさせたりして、受託者の利益を不当に害する行為です。
判断の軸はシンプルで、費用・損失を発注者が負担しているかどうか。それまでの作業が無駄になったり、当初委託になかった追加作業が必要になったりした場合に、発注者がその費用や損失を負担しないことが「利益を不当に害する」とされます。逆に、費用・損失を発注者が負担するなどして不当に害しないと認められる場合は、問題になりません。
情報成果物の作成委託には、少し柔らかい扱いがあります。発注者の価値判断で評価される部分があり、事前に条件を明確にできない場合があるためです。この場合は、やり直しに至った経緯を踏まえて費用・損失について十分な協議をしたうえで合理的な負担割合を決定し、その割合を負担すればやり直しをさせること自体は問題にならないとされています。ただし発注者が一方的に負担割合を決めて不当な不利益を与える場合は、不当なやり直しに該当します。
「仕様が固まっていないから、とりあえず作って」と言われた後の大幅な手戻りは、ここが争点になります。
ミニFAQ
常駐の準委任で、週の終わりに「方針が変わったので作り直して」と言われました。これは該当しますか。
準委任は時間や工数に対して報酬が支払われる構造のため、稼働時間が精算対象になっていれば、やり直し自体が直ちに不当とは限りません。問題になりやすいのは、精算幅の上限を超えた稼働を求められたのに追加分が支払われない、固定報酬なのに作業量だけが増える、といったケースです。精算の仕組みは「準委任の精算幅とは|140-180hの意味と超過・控除の計算方法」を参照してください。
契約形態別|エンジニア案件でどの禁止行為が効くか
このページ独自の整理として、委託類型ごとに適用関係をまとめます。フリーランス法の委託類型は、物品の製造委託・情報成果物作成委託・役務提供委託の3つです。
禁止行為 | 準委任・SES常駐(役務提供委託) | 請負・成果完成型(情報成果物作成委託) |
|---|---|---|
受領拒否 | 対象外(第5条第2項第2号で検討) | 適用される |
報酬の減額 | 適用される | 適用される |
返品 | 対象外(第5条第2項第2号で検討) | 適用される |
買いたたき | 適用される | 適用される |
購入・利用強制 | 適用される | 適用される |
不当な経済上の利益の提供要請 | 適用される | 適用される(著作権の無償譲渡がここ) |
不当な給付内容の変更・やり直し | 適用される | 適用される |
準委任・SES常駐の場合に見るべきポイント
相談として挙がりやすいのは、報酬の減額・買いたたき・不当な給付内容の変更やり直しの3つです。常駐案件では「納品」の概念が薄いため、受領拒否や返品の枠組みでは拾えません。ただし購入・利用強制や不当な経済上の利益の提供要請も準委任で問題になりうるため、この3つだけに限られるわけではありません。
稼働の実態と報酬のズレが生じたら、精算幅・追加稼働の扱い・固定報酬の範囲を契約書と3条通知(取引条件の明示書面)に戻って確認するのが先決です。
請負・成果完成型の場合
成果物を納品する形なら、7類型すべてが視野に入ります。特に検収の引き延ばしは、受領拒否・返品・報酬の減額のどれにも転びうる論点です。検収と請求の実務は「検収・請求のタイミングと入金トラブル回避|フリーランスエンジニアの実務ガイド【2026年版】」で扱っています。
成果完成型の準委任は、名前は準委任でも成果物の完成が報酬の条件になります。どちらの枠で見るべきかは「成果完成型の準委任とは|請負・履行割合型との違いと報酬の扱い」を確認してください。
実際の勧告から見る|どの類型で行政が動いているか
ここが、7類型の暗記だけでは見えてこない部分です。
令和7年度の運用状況
公正取引委員会が令和8年6月10日に公表した令和7年度におけるフリーランス法第2章の運用状況によると、違反被疑事件の処理件数は1,597件。うち1,552件について、法第8条に基づく勧告または法第22条に基づく指導の措置が講じられています。内訳は勧告10件、指導1,542件。公正取引委員会への申出件数は604件でした。
勧告10件の対象となった違反行為類型は、次のとおりです。
違反行為類型 | 件数 |
|---|---|
取引条件の明示義務違反(第3条第1項) | 10件 |
期日における報酬支払義務違反(第4条) | 9件 |
報酬の減額(第5条第1項第2号) | 1件 |
不当な経済上の利益の提供要請(第5条第2項第1号) | 1件 |
読み取れるのは、勧告に至った10件すべてで明示義務違反が認定されているという構造です。禁止行為7類型で挙がったのは2件のみ。7類型を気にする前に、まず書面が出ているか、60日以内に支払われているかを確認したほうが実利が大きい、ということになります。明示事項の確認手順は「フリーランス法の明示事項9項目|取引条件の書面を確認する手順」にまとめています。
ただし、この内訳は勧告に至った事案のもので、指導1,542件の類型別内訳は公表されていません。禁止行為での指導がどれだけあったかは、この資料からはわかりません。
買いたたきの勧告例|株式会社河合楽器製作所
令和8年6月22日、公正取引委員会は株式会社河合楽器製作所に対する勧告を公表しました。
音楽教室の講師に体験レッスンの実施を委託した際、特定受託事業者28名に対して、通常レッスンの対価に比べ約33.9パーセントから約72.3パーセントまでの間の率を引き下げた額を報酬の額として定めていた、という内容です。100名に対する明示義務違反、98名に対する支払期日違反も併せて認定されています。
勧告では、報酬の額を著しく低くない額まで、公正取引委員会の確認を得たうえで令和6年11月の業務委託の発注分にまで遡って引き上げることなどが求められました。施行月まで遡る是正が命じられている点は、実務上の重みとして覚えておく価値があります。
報酬の減額の勧告例|株式会社Timewitch
令和8年5月29日に公表された株式会社Timewitchに対する勧告は、報酬の減額が認定された事案です。
148名の報酬から「コンプライアンス対応費用調整額」として計4,463,380円を、29名からは報酬額に11分の1を乗じた計1,055,754円を減額していました。勧告では、160名に対し減じた計5,519,134円を速やかに支払うことなどが求められています。
名目をつければ通る、ということはない。これが実例から読み取れる一番のメッセージです。
7類型に「含まれないもの」|取適法との線引き
誤解が多いところなので、切り分けておきます。
2026年1月1日に施行された取適法(旧・下請法)では、手形払いの禁止や振込手数料を負担させることの禁止などが新たに加わりました。これらは取適法の規定であって、フリーランス法第5条の禁止行為7類型には含まれません。
フリーランス法の考え方の資料は、報酬の支払について手形を交付すること、および報酬の支払期日までに金銭と引き換えることが困難な手段を使用することを「望ましくない」と位置づけています。禁止ではなく、望ましくない、という表現です。
また、報酬額の決定にあたって十分な協議が行われたかどうかは、フリーランス法では買いたたきの判断要素の一つという扱いになっています。独立した禁止類型として立っているわけではありません。
どちらの法律が自分の取引に適用されるかは、発注者の規模や取引の性質で変わります。取適法側の変更点は「【2026年施行】下請法が「取適法」に改正|フリーランス・SESが契約前に確認すべき変更点」で整理しています。
なお、フリーランス法には7類型以外の義務も置かれています。取引条件の明示義務(第3条)、給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内での支払期日の設定(第4条)、6か月以上の継続的業務委託を解除または更新しない場合の少なくとも30日前までの予告(第16条)などです。契約終了の実務は「業務委託の中途解約|フリーランスエンジニアが案件を円満に辞める手順」を参照してください。
違反かもしれないときの初動と相談先
気づいた時点で、まず記録を揃えます。交渉より先に、事実を固めるほうが結果的に早い。
最初の48時間で揃える記録
3条通知(取引条件の明示書面・メール)。報酬の額、支払期日、給付の内容が何と書かれているか
変更前後がわかるやり取り。減額や仕様変更を伝えられたチャット・メールの原文
実際の稼働と成果の記録。日報、コミット履歴、稼働時間
請求書と入金記録。差額がいくらで、いつの分かを特定できる形に
口頭で言われた場合は、「先ほどのご連絡を確認させてください」と書いて相手に返し、文字に残すのが実務的です。証拠の残し方は「フリーランスのハラスメント相談先|フリーランス法の窓口と証拠の残し方」でも扱っています。
窓口の使い分け
窓口 | 性質 | 向いているケース |
|---|---|---|
法違反の事実を申し出る | 減額・買いたたき等、取引適正化部分の違反を是正してほしい | |
弁護士による無料相談・和解あっせん | 自分のケースが違反にあたるか判断がつかない、個別に相談したい | |
解釈の確認 | 窓口に行く前に、条文の読み方を確認したい |
申出をためらう理由として多いのが、取引を切られる不安でしょう。この点について法は手当てをしていて、業務委託事業者が、受託者が公正取引委員会または中小企業庁長官に申出をしたことを理由として、取引数量を減らしたり取引を停止したりその他不利益な取扱いをすることを禁じています(第6条第3項・報復措置の禁止)。
エージェント経由の案件なら、まず営業担当に相談するほうが早いケースもあります。条件の食い違いが起きたときの進め方は「案件が聞いていた条件と違う時の相談手順|フリーランスの初動と交渉」、一方的な通告を受けた後の動き方は「単価引き下げ・契約変更を一方的通告された時の対応|フリーランス新法・取適法の守られるライン」にまとめています。
ここまでは制度の情報提供です。個別の取引が違反にあたるかどうかの判断は事実関係によって変わるため、上記の窓口や弁護士に確認してください。
よくある失敗と契約前後のチェックリスト
失敗1|「1か月未満だから守られない」と思い込む
更新で通算1か月以上になれば、それ以降は対象です。1か月予定の案件も最初から対象になります。短期だからと諦める前に、通算期間を数えてみてください。
失敗2|減額に同意してしまったので諦める
合意があっても法違反になりうる、というのが制度の立て付けです。同意した事実は不利に働きますが、それだけで申出ができなくなるわけではありません。
失敗3|準委任なのに受領拒否で主張しようとする
役務提供委託では受領拒否・返品の規定が使えません。第5条第2項第2号(不当な給付内容の変更・やり直し)や報酬の減額で組み立てるほうが筋が通ります。主張の枠を間違えると、窓口でのやり取りが長引きます。
契約前後に見る10項目
取引条件が書面または電磁的方法で明示されているか
報酬の額と算定方法が特定できる形で書かれているか
支払期日が、給付を受領した日から起算して60日以内になっているか
再委託の場合、その旨と元委託者からの支払日が明示されているか
契約期間が1か月以上か(更新で通算1か月以上になるか)
報酬から控除される項目が事前に明示されているか
知的財産権の譲渡・許諾が「給付の内容」に含まれ、その対価が報酬に織り込まれているか
仕様変更・やり直しが生じた場合の費用負担の取り決めがあるか
検収の基準と期間が決まっているか
解除・不更新の予告(6か月以上の契約なら30日前)の条項があるか
条件を見て受けるかどうかを判断する枠組みは、「案件の選び方|フリーランスエンジニアが単価・稼働・スキルで決める優先順位」が参考になります。
まとめ
フリーランス法の禁止行為は7類型。適用の入口は1か月以上の業務委託で、本人が合意していても違反は成立し得ます。準委任で働くエンジニアは、受領拒否と返品が対象外である点を押さえたうえで、報酬の減額・買いたたき・不当な給付内容の変更やり直しを軸に考えるのが実務的です。
7類型は第5条第1項に5つ、第2項に2つ。第2項の2つは「利益を不当に害する」ことが要件
受領拒否・返品は役務提供委託に適用されない。該当しうるのは第5条第2項第2号
報酬の減額は名目を問わない。認められる例外は「客観的に相当と認められる額」に限られる
買いたたきの判断要素は4つ。筆頭は「十分な協議が行われたかどうか」
知的財産権の無償譲渡・二次利用の一方的制限は、不当な経済上の利益の提供要請に該当しうる
令和7年度の勧告10件は全件で明示義務違反を認定。禁止行為の確認とあわせて、書面と60日以内の支払いも確認する
申出を理由とした報復措置は第6条第3項で禁止されている
次のアクションは、手元の3条通知を開いて、報酬の額・支払期日・給付の内容の3点が特定できる形で書かれているかを確認することです。書かれていなければ、その時点で明示義務の問題が立ちます。違反が疑われる場合は、公正取引委員会の申出窓口やフリーランス・トラブル110番に相談してください。案件探しや契約条件の確認を事前に相談したい場合は、フリコンに登録して担当者に条件面を確認してもらう方法もあります。
参照元・一次情報(2026年10月21日確認)
よくある質問
禁止行為に違反した発注者には、どんな措置がとられますか
公正取引委員会は、法第8条に基づく勧告または法第22条に基づく指導の措置を講じています。令和7年度は勧告10件、指導1,542件でした。勧告を行った場合、公正取引委員会は企業名を含めて報道発表を行っており、過去の勧告は同委員会のウェブサイトで公開されています。
1か月未満の案件では、発注者は何も守らなくていいのですか
いいえ。取引条件の明示義務(第3条)は、業務委託の期間にかかわらず適用されます。1か月未満で適用されないのは、第5条の禁止行為と、第4条の報酬支払期日の規定(給付受領日から60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定める等)です。つまり1か月未満の案件でも書面による条件明示は必要で、支払いが遅れた場合は契約上の債務不履行として請求することになります。
エージェント経由の案件でも、フリーランス法は適用されますか
適用されます。契約の相手方であるエージェント(発注事業者)が特定業務委託事業者にあたるなら、明示義務も禁止行為も対象です。エージェントの仕組み上、合意した報酬額の内訳としてマージンが織り込まれていること自体は減額にあたりませんが、当初提示された報酬額から事後的に差し引く場合は別の問題になります。
「通常支払われる対価」はどう調べればいいですか
公開案件の単価レンジや、同種業務の過去の自分の単価が出発点になります。考え方の資料は、従前の給付と同種・類似の場合に「従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い報酬の額」を基準の一つとしています。つまり、前回と同じ内容で大幅に下げられたら、その差自体が材料になります。
稼働途中で単価を下げると言われました。これは報酬の減額ですか
契約期間中に、すでに定めた報酬を一方的に引き下げるなら報酬の減額の問題になりえます。一方、次の契約更新時に新しい単価を提示されるのは、原則として減額ではなく新たな報酬額の決定です。この場合は買いたたきの枠で判断されることになります。
成果物の著作権を無償で譲渡するよう求められました
業務委託の目的物たる給付に関して知的財産権等が発生する場合に、その譲渡・許諾を「給付の内容」としていないにもかかわらず無償で譲渡させることは、不当な経済上の利益の提供要請に該当するとされています。契約時に権利の範囲と対価を明確にしておくのが対策です。
発注者に「悪意はなかった」と言われました
違法性の意識がなくても法違反になる、と考え方の資料が明記しています。故意かどうかは要件ではありません。
申出をしたら取引を切られませんか
申出をしたことを理由に取引数量を減らす、取引を停止する、その他不利益な取扱いをすることは、法第6条第3項で禁止されています。不安があれば、まずフリーランス・トラブル110番で匿名に近い形の相談から始める方法もあります。
禁止行為は、発注者が従業員を使用していない場合も適用されますか
適用されません。第5条の対象は「特定業務委託事業者」で、これは従業員を使用する事業者か、代表者以外の役員がいる法人です。発注者が1人のフリーランスの場合、課されるのは主に取引条件の明示義務になります。
検収をずっと保留にされているのは、受領拒否にあたりますか
成果物を納品する委託類型で、責めに帰すべき事由がないのに受領を拒んでいるなら受領拒否の問題になりえます。ただし準委任では受領拒否の規定が使えないため、契約類型の確認が先です。検収基準が契約書にあるかどうかも併せて見てください。
過去に減額された分も、さかのぼって請求できますか
勧告事例では、過去の発注分まで遡って是正が求められたケースがあります。河合楽器製作所の事案では、令和6年11月の発注分まで遡って報酬を引き上げることが勧告されました。個別の請求可否は事実関係によるため、窓口で相談してください。
違反を疑ってから申出までに期限はありますか
法律上、申出の期限は定められていません。ただし時間が経つほど記録が散逸し、関係者の記憶も曖昧になります。気づいてから数日以内に、3条通知とやり取りのログを保存しておくのが現実的です。
